心不全による肺水腫

昨日、朝方緊急の電話が鳴りました。「もともと心臓が悪いチワワの呼吸状態がおかしい」という内容です。

肺水腫で酸素室に入院

連れてきていただいたときには、呼吸が非常に荒く、チアノーゼを起こしていました。すぐに聴診をし、重度の心雑音と肺音の悪化を認めたこと、すでに重度の弁膜症と診断されていたことから、利尿剤の注射と血管拡張薬の投与をし、用意していた酸素室に入院です。本来であればエコーやレントゲンで状態を把握したいところですが、こういった時にストレスのかかる検査をするとさらに状態が悪くなるため、身体検査のみで診断を行います。

20分ほどで落ち着いたところで、飼い主さんが用事があるということでいったん帰っていただき入院になりました。チワワちゃんは、呼吸が落ち着くと、私に対して怒るようになってしまい(汗)興奮してしまうこと、呼吸も安定して家も遠いということから、14時間の入院の後、いったん帰宅していただきました。

肺水腫 僧帽弁閉鎖不全 緊急

先日来院した肺水腫のチワワちゃん。酸素室で少し落ち着いています。

今回の症例では、一命をとりとめることができ、落ち着いた状態で帰っていただくことができたためホッとしましたが、肺水腫は病院に連れてきていただいても治療の甲斐なく亡くなってしまうことも多い病気です。

犬の心不全の緊急は非常に多い

心不全、中でも小型犬の子に多い僧帽弁閉鎖不全症(僧帽弁閉鎖不全症=MR)は緊急状態に陥ることが非常に多い病気です。私が夜間救急動物病院で勤務していた時にも月に数件は必ず心不全の緊急症例が来院していました。

その原因がMRに伴う肺水腫。呼吸困難を伴う非常に危険な状態です。

肺に水が溜まって呼吸困難を起こす肺水腫

肺水腫は英語で「Pulmonary edema」(肺の浮腫・むくみ)であり、肺に水分が多くなる状態をさします。心不全以外にも感電や溺水、過剰輸液などで起こるケースがありますが、犬では圧倒的に心不全が原因で起こることが多いです。

左心房と左心室の間にある「僧帽弁」のしまりが悪くなる僧帽弁閉鎖不全症では、通常であれば肺静脈⇒左心房⇒左心室へと流れる血流がうまく流れず、肺静脈のうっ血(血液の流れが滞って溜まってしまうこと)が起こります。

静脈には非常に細かい穴が無数に空いており、肺静脈のうっ血が起こるとその穴から血液中の水分が肺の方へ漏れ出します。肺の中には本来すった空気が入ってきて、血液に酸素を送り届けます。その肺の中に漏れ出た水分が溜まってしまうと、吸った空気から酸素を取り込めなくなり、酸欠状態になってしまいます。水に溺れたときと同じように肺の中が水浸しになってしまうと、強い呼吸困難を起こしてしまいます。

心臓の悪い子に強いストレスは厳禁

肺水腫が起こる原因は心不全にありますが、急に肺水腫を起こすのにはきっかけがあることもあります。最も多いきっかけが「ストレス」です。

重度の心不全を持つ犬では、心臓が悪いなりに何とか体が適応し、状態を維持しています。その状態で血圧が変動すると、それに対応できず肺の循環が悪くなり、肺水腫を起こすということが非常に多いです。

特に注意してほしいのがトリミングやシャンプーです。心臓が悪い子では、トリミングに行ったりシャンプーして帰ってきてから調子が悪いということが多く、その場合には大多数の犬で肺水腫を起こしています。その原因は水を飲み込んでしまったからではなく、トリミングやシャンプーで長時間拘束されたりすることによるストレスです。そのため、トリミングに行く場合には必ず心臓が悪いことを伝えてもらい、いつもの慣れたところでやってもらうようにしてください。

それ以外にも無理な散歩や、押さえつけて行う投薬や爪切りなどもきっかけとなることがあります。また、非常に重度の心不全を持っている場合には、興奮しただけでも肺水腫を発症することがあるので、できるだけ興奮させないようにすることが大切です。

肺水腫の症状

肺水腫の症状は以下の通りです。

  • 湿性の咳
  • 呼吸数の増加
  • 開口呼吸
  • チアノーゼ(舌の色が紫や白っぽくなる)
  • 血まじりの鼻水や喀痰

特に下の3つはすぐに亡くなってしまう可能性のある、緊急性の高い症状です。こういったことがある場合には、必ずすぐに動物病院に連絡しましょう。

家でできる肺水腫の予防

肺水腫は一度発症してしまうと非常に危険です。心不全を持つ犬では肺水腫のリスクを無くすことは不可能ですが、できるだけ肺水腫を起こさないように予防していくことは可能です。以下のような点に気を付けましょう。

強いストレスを与えない

お話しした通り、強いストレスは肺水腫のきっかけになることが多いです。できる限り、長時間の処置や体をがっちり押さえつけるなど強いストレスを与えることをは避けるようにしましょう。心配な場合はかかりつけの先生に相談した上で処置をしたり、お願いしたりするようにしてください。興奮するようなことや長時間の散歩・ドライブなどももなるべくさけるようにしてください。

安静時呼吸数に注意

心不全の状態を知る上で、最近とくに重要だと言われているのが「安静時呼吸数」です。寝ていたりリラックスしているときの呼吸数を測り、1分間で30回以上(2秒に1回以上)呼吸している場合には潜在的な肺水腫が隠れている可能性があると言われています。

興奮時にはあてになりませんし、寝ている時も夢を見ている(?)などで時々呼吸数が速くなることがあります。何度か時間を空けて測ってみて、やはり1分間に30回以上呼吸している場合には、動物病院で早めに診てもらいましょう。場合によっては検査で軽度の肺水腫が見つかることもあり、その場合には薬の種類を変更したり、用量を増やさないといけないこともあります。

定期的な動物病院の受診

MRの進行速度には非常に個体差が大きく、同じMRでも心臓の状態はその子その子で違っています。その状態によってそれぞれ必要な薬が変わり、適切な薬の飲ませることで、肺水腫を予防することができ、心不全があっても長く元気で楽な状態で生活させてあげることも可能になります。

そのためには定期的に動物病院を受診し、最低限聴診などの身体検査はしてもらうようにしましょう。最近では、レントゲン、心エコー、血液検査など心臓の状態を把握するための精度の高い検査ができるようになりました。どんな検査が必要なのかを飼い主さんと獣医師で相談できるよう、定期的な動物病院の受診は欠かさないようにしてください。

肺水腫は予防と早期の受診が重要

肺水腫は致死率の高い、犬で非常に多い救急疾患です。まずは肺水腫を起こさないような予防策がとても大切になります。また、肺水腫を起こしてしまっている可能性がある場合には、できる限りストレスをかけないようにして早急に動物病院を受診するようにしてください。早期に気付いてあげれば注射や飲み薬だけで対応できることもありますが、そのまま放置してしまうと、動物病院に着くころにはすでに非常に危険な状態になってしまっているということもあります。

気になることがある場合には早めに当院にも相談してくださいね。

 

 

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