腎不全と低カリウム

先日夜間の救急で、「元気がなく、ふらついている」という猫ちゃんが来院しました。14歳のクロちゃん(仮名)です。

ふらつきにはいろいろ原因が

高齢の猫ちゃんがふらつく原因にはさまざまなことが考えられます。

  • 貧血
  • 脱水
  • 心不全
  • 低体温
  • 低血糖
  • 代謝の異常
  • 脳疾患 etc….

このように、電話を受けた時点でいろいろな病気が頭に浮かびます。診察では問診と身体検査で可能性の高い病気を順番に考えていき、それを踏まえて必要と思われる検査を飼い主さんと相談しながら進めていきます。

慢性腎臓病のモデル。左が正常な腎臓、右が慢性腎臓病により萎縮した腎臓

まずは問診から

問診は、動物病院での診察ではわからない普段の様子や状態の変化を聞くための大切なステップです。

お話を聞く限りでは、

  • 数日前から少しずつ調子が悪くなった
  • 外には行かない
  • まったく食べないわけではないが、ほとんど食べない
  • 全く元気がなく、いつも飛び乗れような高さの段に飛び乗れない
  • 数日前に歯が数本抜けた
  • 頭が垂れたまま上がらない

などといったクロちゃんの情報を教えてもらうことができました。この中にもいくつか病気のヒントとなるキーワードが隠れています。

身体検査で体の情報をつかむ

では次に身体検査で体の情報を見ていきます。

貧血の有無は舌の色で

貧血の有無は舌の色を見ることである程度簡単に判別できます。舌の色が人と同じようなピンク色であれば貧血はありません。白っぽくなっている場合には、緊張による影響であるケースもありますが、貧血や低血圧など病的なものが疑われます。

クロちゃんの場合には、きれいなピンク色をしており、貧血の可能性は低いと判断しました。

脱水の有無は皮膚のテントテストで

背中の皮膚をつまんでどれくらいで戻るかというのを見るのが皮膚のテントテストです。脱水がなければ1秒以内に皮膚は元に戻りますが、戻るまでの時間が長ければ脱水と判断します。高齢の猫ややせている猫ではつまむ部位によっては脱水がなくても延長することがありますので、注意が必要です。

クロちゃんではテントテストが約2秒。正常よりも若干延長しており、中等度の脱水と判断しました。

聴診も重要

身体検査では見た目でわからない以上を把握するための聴診も重要です。医師や獣医師が必ず聴診器を持っているのは、心臓や肺など、目に見えないけれど命に関わる臓器の異常を見逃さないためです。

クロちゃんの聴診では、心臓に軽度の心雑音が確認されました。心臓にも少し異常がありそうです。

神経の異常を検出するためには神経学的検査

脳神経の異常からふらつきが来ている可能性があるかどうかを見極めるためには、神経学的検査が有用です。神経学的検査にはたくさんの項目がありますが、そのうち脳神経の異常を見るためには、瞳孔の反射や目の動き、顔面の神経の反応などを見ます。

クロちゃんの場合は、簡易的な神経学的検査では特別異常は確認できませんでした。

その他、身体検査でわかること

身体検査ではその他さまざまなことがわかります

  • 呼吸の異常
  • 黄疸の有無
  • 腹腔内腫瘍の有無
  • 筋肉の萎縮の程度
  • 体の痛みの有無 etc…

当院にも血液検査・レントゲン検査・超音波検査など高度な医療機器が入っていますが、一番負担がなく費用の掛からない身体検査なしにこれらの検査機器を使う検査を行うことはありません。それくらい身体検査は重要です。

脱水の原因を探るために血液検査

問診と身体検査で、ある程度体の状態や怪しい病気がわかったところで検査を行います。クロちゃんの場合には一番必要と思われる血液検査をまずは行いました。

その結果は以下の通りです。

  • 貧血なし
  • 白血球数軽度上昇(19700/μl)
  • 腎臓の数値の上昇(BUN:61.4㎎/dl クレアチニン:2.6mg/dl)
  • 肝酵素の上昇(ALT:164IU/l)
  • カリウム値の低下(2.4mEq/l)

腎臓病のからの脱水と低カリウムが疑わしい原因

問診・身体検査・血液検査からは腎臓病に伴う脱水や低カリウムがふらつきの原因である可能性が高いと判断しました。カリウムが低くなると、筋肉の動きが悪くなりふらつきが出ることが多いです。とくに猫の低カリウムでは頭を支えることができなくなり、「落ち込んだように首を下げる」という姿勢が特徴的な症状として現れます。

猫の腎不全では、薄い尿が大量に出るようになることが多く(尿比重の低下と多尿)、それに伴いカリウムの排泄量も増加して、低カリウムになることが多いです。さらに、食欲不振や嘔吐などが重なるとさらに低カリウムが進みます。低カリウムは体を動かす筋肉だけでなく腸を動かす筋肉の働きも弱めてしまうため、さらに食欲が低下して低カリウムが進むという悪循環を繰り返します。

カリウムの正常値は3.5mEq/l以上ですが、3mEq/l以下で低カリウムの症状が出るケースが多いです。高齢の猫ちゃんでは腎臓病の罹患率が非常に高いため、

  • 8歳以上の猫
  • ここしばらく(数週間~数か月)多飲多尿が続く
  • 最近動きが悪く痩せて来た
  • 頭が下がり気味

などという場合には腎臓病からの低カリウム血症の可能性が高いので、早めに血液検査を行う必要があります。

甲状腺機能亢進症の可能性も

クロちゃんの場合には、もう一つ怪しい病気があります。それが甲状腺機能亢進症です。

甲状腺は首のあたりについている左右一対の内分泌器官(ホルモンを出す臓器)です。甲状腺からは、体の代謝を活発にするためのホルモンである「甲状腺ホルモン(サイロキシン)」が分泌されます。動物にも甲状腺の病気はありますが、不思議なことに猫ではホルモンが多く出すぎる「甲状腺機能亢進症」が、犬ではホルモンが少なくなる「甲状腺機能低下症」が多く発生します。

甲状腺機能亢進症では甲状腺ホルモンが出すぎてしまうことで、体にさまざまな影響を及ぼします。猫で一番問題になるのが血圧が上がることで起こる循環器の問題です。循環器に関係する臓器は心臓と腎臓ですが、甲状腺機能亢進症があると高血圧の影響により肥大型心筋症や腎不全が発症しやすくなります。また、甲状腺機能亢進症では肝臓の数値が高くなることも多く、クロちゃんの血液検査の数値に一致します。甲状腺機能亢進症では、代謝が異常に活発になるため、食べても痩せて来るという猫ちゃんも多いです。

甲状腺機能亢進症は、血液を検査センターに送り、甲状腺ホルモンの数値を測定することで診断が可能です。今後、クロちゃんは様子を見ながら甲状腺ホルモン検査や肝臓の数値を見ていく予定です。

点滴による脱水とカリウムの補正

以上のように、クロちゃんは腎臓病がおおもとにあり、そこから脱水と低カリウムが起きて調子を崩した可能性が高いと判断しました。甲状腺や肝臓の病気、さらには身体検査や今回の血液検査ではわからない病気が隠れている可能性も十分ありますが、すべてを検査していくとかなり高額になってしまうこと、それほど緊急性が高くないと判断したことから、まずは点滴で脱水とカリムの補正を行うことにしました。通常の点滴にカリウムを添加することで、体の中のカリウム濃度を高めてあげることができます。5分ほどで点滴ができる皮下補液を行いました。

点滴をした翌々日、再診指示を守ってクロちゃんは来院してくれました。調子は少し良化傾向、動きが良くなり、段差も登れるようになったとのことです。まだ本調子ではないですが、食欲も少しずつ戻ってきているとのことです。

今後は調子を見ながら、甲状腺の血液検査や肝臓を中心としたエコー検査、腎臓病の治療方針を決めるための尿検査などを行っていく予定です。猫ちゃんも長生きできるようになるとともに高齢の子に多い腎臓病や甲状腺機能亢進症が増えてきました。特に7歳以上の高齢の猫ちゃんで

  • 水を飲む量やおしっこの量が増えてきた
  • 最近異常に痩せて来た
  • 毛並みが悪くなった

ということがある場合には、腎臓病や糖尿病、甲状腺機能亢進症など高齢の猫ちゃんが良くなる病気の可能性が高いです。これらの病気があっても早期発見できれば、病気と上手く付き合って長生きできることが多いです。気になることがある場合には早めにご相談くださいね。

 

 

 

 

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