股関節脱臼とその整復

昨日の夕方、突然足をつかなくなったという柴犬さんが来院しました。

足を全くつかない…骨折?

来院したのは柴犬の15歳、かなり高齢のわんちゃんです。名前はモモちゃん(仮名)。

15歳にしては毛艶も体格も良く、一見まだ7~8歳に見えます。待合室に飼い主さんが抱っこして連れてこられていたため、まずは歩き方を見るために下におろしてもらいました。すると、右の後ろ足を全く足を付きません。。。飼い主さんは「折れちゃった?」と心配されています。

骨折にしてはきっかけが弱い

柴犬は骨がかなりしっかりしており、よほどのことがないと骨折はしません。お話を聞く限り、床で滑ったりすることはあるけれど、どこかから落ちたり、事故に遭ったりしたことはないとのこと。もしそれで骨折してしまう用であれば「病的骨折」、つまり、骨が異常に弱くなる病気が隠れていることになります。

身体検査をしてみよう

ということで、まずは診察室に入ってもらい身体検査を行いました。

腫れや強い痛みはない

簡単に全身の身体検査をして全身状態を把握した後、右後肢の触診を行います。足の先から根元の方まで、特に触って痛みや腫れ、熱を持っているようなところはありません。骨折や外傷などがあれば、この触診で異常が出て来ることが多いです。身体検査で骨折を100%否定はできませんが、この時点で骨折の可能性は低いと判断しました。

足の曲げ伸ばしをしてみると・・・

次に関節の評価をするために脚の曲げ伸ばしをしてみました。足根関節(足首の関節)、膝関節(膝の関節)、股関節と足の先の方から曲げ伸ばしを行います。

すると、股関節を伸ばそうとすると「ギャン」と鳴いてしっかり伸ばすことができません。これは股関節に何か異常がある可能性を示す症状です。柴犬は骨は強いですが、なぜか股関節脱臼が多い犬種です。この時点でその心配が高くなりました。

レントゲンで確認を

身体検査で、

  • 骨折や外傷の可能性が低い
  • 股関節の異常の可能性が高く、脱臼しているかもしれない

ということをお伝えして、その確認のためレントゲンを撮らせていただくことにしました。股関節脱臼 犬 柴犬

モモちゃんに仰向けになってもらって撮った写真がこちらです。お分かりになりますか?

少し左右がずれていますが、左の股関節(写真右側)は、大腿骨頭が寛骨臼にしっかりはまっているのに対し、右の股関節(写真の左側)は、股関節が外れて(頭側)写真上側にずれてしまっています。

 

外れた関節を戻したいけれど・・・

股関節脱臼の治療は、もちろん外れた股関節を元に戻してあげることです。しかし、その治療をするにはいくつかのハードルがあります。

深めの鎮静や麻酔が必要

股関節を元に戻す時は、非常に強い痛みを伴います。そのため、痛み止めを使うだけではとても処置はできず、最低限鎮静が必要になります。ただし、軽い鎮静だけではその痛みですぐに起きてしまうこと、筋肉に力が入っていると股関節をうまく戻せないことから、深めの鎮静や麻酔が必要になってきます。

若い子であれば、リスクは高くないですが、若くは見えるものの15歳を超えた柴犬さんは費とで言うと80歳超え。深めの鎮静や麻酔にはリスクがあります。しかも、話を聞くとモモちゃんはフィラリア予防などをしていないとのこと。フィラリアに感染していればさらにそのリスクは高くなります。

処置で必ず戻るとは限らない

股関節は肩やひざの関節などに比べると非常にしっかりした作りになっています。外れにくいのですが、その分はずれてしまうと戻りにくくなってしまいます。特に筋肉量の多い中型以上の犬では、筋肉が骨を引っ張る力が強く、麻酔をかけてもうまく戻らないということもあります。

再脱臼の可能性も高い

股関節は通常外れることの少ない関節です。それが外れてしまった場合、

  • もともと関節の構造が弱い
  • 骨盤と大腿骨をつなぐ靭帯が切れてしまっている
  • 関節を守る関節包(かんせつほう)が破れてしまっている

などといったことが考えられます。そうなると、脱臼を征服してもすぐに外れてしまう可能性も高いです。モモちゃんの場合も強い衝撃が加わったわけでもないのに外れてしまったということを考えると、再脱臼のリスクは高いと考えられます。再脱臼してしまう場合には、それを起こさないようにするためには手術が必要になります。

相談の上、処置を行うことに

このようなお話をさせていただいたうえで、

  1. 保存療法
    痛み止めを使って少しでも痛みがましなようにしてあげる
  2. 整復術
    鎮静をかけて整復する(手術ではない外科療法で、非観血的整復術とも呼ばれます)

のどちらを行うのか、飼い主さんに決めていただきました。飼い主さんの意向としては、リスクがあっても「痛みが少しでも取れる方法を行いたい」ということでした。再度身体検査を行い、鎮静をかけて整復をすることにしました。

鎮静薬の投与

今回の処置は、単にぼーっと寝てしまうというだけでなく、ある程度痛みを抑えたり、筋肉の力を抜けるような作用を持つ鎮静が必要になります。必要な鎮静薬を三剤使う「コンビネーション麻酔」を行いました。

それらの薬剤を筋肉注射し、約10分程度で力が抜けてきたため処置を開始しますが、その前に、心電図を装着し、酸素マスクをつけて万全の態勢を整えておきます。

整復処置

鎮静がある程度しっかり効いて、脱臼した足を動かしても反応がない状態で処置は行っていきます。今回の脱臼は股関節脱臼によくある「前方上方脱臼」であったため、大腿骨をひねりながら尾側腹側の正常な位置に戻していきます。文章にすると簡単ですが、この処置は意外と大変です。

ぐっと引っ張って少し手ごたえがあったところでレントゲン撮影。まだ戻っていません。。。

股関節脱臼の整復後

股関節脱臼 犬 柴犬

股関節脱臼の整復前

再度整復処置を行い、今度は「ごりっ」というさらに強い手ごたえがあったためレントゲンの再撮影を行うと以下のような写真が得られました。整復前の写真と比べると、しっかり右の股関節(写真左側)がはまっているのがわかります。モモちゃんの場合には、もともと股関節の構造が弱くなっていたからかもしれませんが、5分程度で整復処置は終わりました。その間も、思ったより状態は落ち着いており、鎮静はちょうどよい深さで維持ができました。

使わないように固定:エルマー吊包帯

整復は完了しましたが、この状態でそのままにしておくことはできません。すぐに股関節を使ってしまえば再脱臼は必至です。そこで必要なのが、股関節の固定であり、わんちゃんによく使うのはエルマー吊包帯という方法です。

これは、人で言う足の裏から包帯を当て、足が曲がった状態で体に固定する方法です。こうすることで右足は使うことができず、左足のみで歩くことになります。状態を見ながら2週間程度固定をしておく予定です。

拮抗薬にて覚醒

整復・固定が終わったところで拮抗薬を打って覚醒させます。徐々に意識が戻り始め、顔をあげてくれました。ちょっとほっとする瞬間です。帰宅するときはまだ立てませんでしたが、それでも体を起こしてしっかり意識も戻っていました。

夜の診察終了後に電話で聞いたところ、元気にしてくれているということでよかったです。

今後の予定

今後は、固定がきつくなりすぎていないかチェックしつつ、タイミングを見計らって固定を外していく予定です。うまく再脱臼しないで治ってくれることを祈っております。

犬の脱臼と言えば小型犬の膝蓋骨脱臼が多いですが、時々股関節脱臼を診察する機会があります。落下や事故などの強い衝撃を受けたとき、そうでなくても股関節が弱い犬が滑った時などに股関節脱臼は起こりやすいです。膝蓋骨脱臼に比べて痛みがかなり強いので、股関節脱臼を疑ったら早めに対処してあげてくださいね。

~その後~

モモちゃんは、整復して2週間。本来であればこれくらいまで固定をしなければならないのですが、固定していると便もしないとのことで、実は1週間弱で固定を取って様子を見ておりました。

足の方は、、、びっこは引くものも少しずつつけるようになってきています。触診のみではありますが、曲げ伸ばしにも痛みを伴わないため、股関節は外れないでいてくれているようです(レントゲンは撮影していませんが・・・)。

良化傾向にあるため、関節のお薬を続けて経過観察としております。このまま良くなっていってくれることを願っています。

股関節脱臼とその整復” に対して1件のコメントがあります。

  1. 横山正樹 より:

    我が家の柴犬も突如として「股関節脱臼」になりました。最初は身動きしないので勝手が分かりませんでしたが一向に立ち上がる様子がないので、動物病院に連れて行き症状が分かりました。1日で済むと思っていましたが病院から帰ってきてから大変です。なんとか完治すればいいのですが、

    1. 院長 より:

      コメントありがとうございます。柴犬さんはなぜか本当に股関節脱臼が多いんです。再脱臼も多いですが、うまく治ってくれるといいですね。
      記事のわんちゃんは整復後半年ですが、今のところ再発がないようです。変形性脊椎症も発症し、定期的に腰にレーザーを当てていますがとても元気に歩いてくれています。

  2. 横山正樹 より:

    股関節手術をして一週間が経ちます。傷痕も酷いものです。絶対安静と言われてゲージに入れておいたら四六時中吠えてます。本人も元気みたいで傷口も少し良くなったみたいで、四つ脚で歩けそうなので、フローリングに滑り止めマットを敷いてゲージから出してみました。そしたら鳴き止み、歩きまわりました。相当フローリングが怖いみたいです。オシッコもウンチもしたのでこれで様子見たいと思います。

    1. 院長 より:

      フローリングは滑りますので、一度脱臼した子の場合は、極力マットを敷いてあげる方がいいですね。
      今後も再脱臼など起きず、そのまま治ってくれることをお祈りしています。
      コメントありがとうございました。

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