春にも潜む熱中症の危険

先日、一宮から熱中症の患者さんが来院されました。気温が20℃程度でも犬は熱中症になることがあります。特に、短頭種やもともと呼吸が弱い犬では熱中症になりやすいので、気を付けてください。

「犬の呼吸が悪く、舌が紫に!」と入電

今回紹介する患者さんはポメラニアンちゃんのレオちゃん(仮名)。ご夫婦で大切に飼われているわんちゃんです。

日曜午後に電話が入り、「犬の呼吸が悪くなって、舌が紫になっている」と非常に慌てた様子でした。その時点でかなり緊急性が高く危険な状態であることが考えられます。すぐに連れてきてくださいと伝えましたが、住所が一宮とのこと。後から聞くと、日曜午後は診察がお休みの動物病院も多く、探して当院へかけてきてくださったようです。とりあえず、すぐに向かってもらいましたが、最悪の状況も考えてエマージェンシー処置の準備をして待ちます。

待っている間に、ヒトの薬を飲んでしまったシュナウザーちゃんや、目が開きづらいというハムスターちゃんも来院します。レオちゃんのことが気になりながらも診察を行っていきました。

レオちゃん到着

当院のお電話番号をナビに入れたら違う場所を案内されてしまったようで(まだカーナビには当院は反映されていないようです。申し訳ありません)、結局1時間近くたって来院。車が入ってきたのを確認して、駐車場まで様子を見に行きます。

お父さんに抱っこをされたレオちゃんは呼吸が非常に荒いものの、舌の色はそれほど悪くなく、ちょっと一安心です。受付も飛ばして診察室で診察を開始します。

体温が41℃!

体重を測り、簡単な身体検査を30秒程度で行います。心臓はそれほど悪そうな感じがないのに呼吸は荒いままです。レントゲンを撮ろうかと思いましたが、体が熱い気がして先に体温測定・・・41℃です。

わんちゃんの体温は38-39℃と人に比べ2度ほど高くなっています。しかし、39.5℃を越えていれば明らかな発熱で、41℃は非常に危険な体温です。発熱ということも考えられますが、急に41℃の発熱をすることは少ないため、症状から総合的に熱中症と断定診断を行いました。

熱中症は夏だけではない

当時はお花見シーズン。外気温は20度程度です。熱中症と言えば30℃を超えるような真夏のイメージがあると思いますが、実は20℃以下でも熱中症は起こってしまいます。

レオちゃんが熱中症になってしまったわけ

レオちゃんは肥満体型のポメラニアンちゃん。さらに興奮しやすく普段から呼吸が荒いということです。レオちゃんには熱中症になりやすい要因がすべてあるのです。今回熱中症になってしまったのは以下のような状態であったからと考えられます。

花見で興奮して吠える⇒息が荒くなる⇒体温が上がる⇒肥満・気道が狭いなどにより体温が下がりにくい⇒余計に息が荒くなる⇒喉が腫れる⇒さらに呼吸が苦しくなり息が荒くなる⇒体温が上がる・チアノーゼが出る…

このような悪循環があれば気温が20℃以下でも熱中症になることがあります。

 

熱中症に気を付けておくべき犬種

 

特に以下のような犬では熱中症になりやすいので注意が必要です。

  • 短頭種(パグやフレブル、チワワなど)
  • 気管の弱い犬(気管虚脱や気管低形成など)
  • 肥満の犬
  • 興奮しやすい犬
  • 高齢の犬

レオちゃんの治療

レオちゃんの治療は以下のようにすすめました。

冷却

熱中症と診断した場合、最も大切なのが冷却処置です。低体温は急に暖め過ぎるとかえって調子を崩すことがありますが、41℃を越えるような高体温の場合には、とにかく冷却をします。

ただし、氷水をかけるような冷却をすると体表の血管が収縮してしまい、体の芯を冷やすのが難しくなってしまいます。濡れタオルをかけながらドライヤーの冷風を当て、同時に氷嚢を大血管のある部位(内股や脇)に当てて冷やします。しかし、レオちゃんは呼吸がなかなか収まらず、お熱もわずかにしか下がりません。

鎮静と消炎

そこで次に考えるのが、呼吸を少し抑えることです。ハァハァすることで体の中で熱を産生してしまうため、体の外から冷やしていてもなかなか熱が下がりません。

そこで、呼吸を強く抑制してしまわない程度の鎮静薬を注射しました。ただし、どれだけ弱くても、呼吸が悪い子に鎮静薬を打つと呼吸が止まってしまう可能性はありますので、呼吸が止まってしまっても大丈夫なように、気管挿管(気管にチューブを入れて人工呼吸がかけられるようにする方法)の準備もしておきます。

さらに、レオちゃんの場合は、呼吸のたびに空気が狭い道を通ってくる音がしていたため喉が腫れている可能性が高いです。喉の腫れも呼吸が荒い原因の一つになりますので、喉の腫れを抑えるお薬も注射します。

注射を打って2,3分でレオちゃんは少しずつぼーっとしてきました。そして、呼吸もちょっとずつ落ち着き、体温も39.5℃まで下がりました。処置にうまく反応し始めました。しかしまだ注意が必要です。

熱中症は多臓器不全に陥るリスク

熱中症で怖いのはその後に起こる合併症です。

血液検査で現在の状態をチェック

そこで、レオちゃんも血液検査を行います。合併症の有無を判断する際に最も有効なのが血液検査です。

血液検査では腎臓の数値が若干高め、肝臓の数値が4~5倍、それ以外は特別大きな異常はありませんでした。腎臓の数値は腎不全というよりは脱水の影響の可能性が高く、肝臓の数値は高体温や低酸素による肝細胞の障害と判断しました。

家に帰るか1泊入院か

ここで悩ましいのは、入院か帰宅かという判断です。

大きな異常があれば入院は必須です。入院をして点滴やお薬を使い、これ以上の臓器のダメージを防ぐとともに、組織の回復や体力の回復を図るというのが理想的です。

一方、大きな異常がなかった場合には、入院が必要かどうかはわかりません。念のために入院をさせて悪化がないか見るのもいいのですが、なんせ興奮しやすいレオちゃん。入院中に興奮してまた同じようなことになりかねません。飼い主様の希望もあり、お家に連れて帰ってもらうことにしました。

熱中症による多臓器不全とは

熱中症では高体温と循環不全による臓器のダメージが起こります。特に肝臓や腎臓はダメージを受けやすく、急性腎不全、急性肝不全を引き起こすことがあります。

また、急激な組織障害とそれに伴う炎症によってDIC(播種性血管内凝固症候群)という非常に怖い病気が引き起こされることがあります。DICでは血液の凝固(固まること)と出血のバランスが崩れてしまい、最終的に出血が止まらなくなったり、血栓症が引き起こされる病気です。DICが発症してしまうと高確率で亡くなってしまうため、熱中症の合併症として注意が必要な病態です。

レオちゃんは現時点では多臓器不全やDICなどの兆候は見られませんでしたが、点滴と血栓予防薬などの注射で予防していきます。翌日来院した際にはまだ元気は完全に戻ってないものの、食欲も多少はあり、呼吸も落ち着いていました。血液検査も落ち着いており、調子が変わりなければ2,3日後に再診していただく予定にしました。

熱中症を予防しよう

熱中症は、がんなどの病気と違い、正しい知識を持って注意してあげることである程度防げる病気です(それでも100%防げるということではありませんが)。死亡例も少なくない熱中症を予防するためには以下のような点に注意をしてください。

  • 室内の温度と湿度に注意

室内飼いの場合、温度はもちろん、湿度も重要です。特に密閉度の高い現代の住宅では、空気がこもり異常な湿度になってしまうことがあります。ワンルームなどでは真夏は冷房の除湿が必須です。一軒家などで冷房をかけない場合には、できる限り扉を開けて空気がよどまないようにしておいてください。

  • 外なら日陰で風通しが良い場所を

外飼いの場合には、必ず日陰になる場所を作ってください。また、壁際で空気がよどむような場所では日陰でも熱中症のリスクが上がってしまいます。できるだけ空気の通りが良い場所も選んでください。

  • 水分はしっかり取れるように

水分が足りなくなると熱中症のリスクは大きく上がってしまいます。必ず新鮮な水分を取れるようにしておきましょう。こぼしてしまったりする可能性を考えて、2カ所に水を設置できると理想的です。

  • 肥満犬ならダイエットを

肥満の犬では熱中症のリスクが非常に大きく上がります。ダイエットは短期間でできるものではありませんので、数か月で体重を10~20%落とせるような健康的なダイエットを目指しましょう。ダイエットには、おやつの減量、食餌量の減量(10~20%)、ダイエットフードへの変更などが有効です。

当院では、ダイエット指導などをしていますので、肥満で悩む飼い主さんは一度フード相談にいらしてくださいね。

  • 興奮させない

今回のレオちゃんのように、興奮からそのまま熱中症になってしまうことがあります。興奮しやすい犬の場合には、できるだけ興奮させないこと、興奮してしまったらできるだけその状況を無くして落ち着かせてあげましょう。

また、車の中で興奮しているときは、冷房を最大限にかけるのと同時に水を飲ませてあげましょう。

  • 水分補給はこまめに

特に夏場の散歩では、散歩中に水分補給をさせてあげることが大切です。30分以上の長時間の散歩になる場合や、短頭種や大型犬の散歩をする場合には、必ず水を携帯してください。

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