身体検査の重要性~乳腺腫瘍と潜在精巣

開院2か月がたち、少しずつ認知度が上がってきたおかげか、ありがたいことに新しく来ていただける患者さんが増えてきました。この時期は狂犬病ワクチンやフィラリア検査など、元気で健康な(に見える)わんちゃんの予防のために連れてきていただくことも多いです。そんな中、飼い主さんが気付かれていない病気に身体検査で気付くということが続きましたので、そのことを記事にさせていただきます。

動物病院には検査機器がたくさんある

動物病院には診察に欠かせない高価な検査機器がたくさん

当院も含め、動物病院にはさまざまな高価な検査機器が導入されています。血液検査(血球計算機、生化学検査)、超音波検査装置、X線発生装置、デジタルレントゲンシステムなどは日常よく使う機器ですが、すべて100万円を超えるような高価なものになります。

こららの機械は病気の診断や治療経過の確認のために非常に有用であり、病気の診断に欠かせない機械です。

検査機器は万能ではない

しかし、これらの検査機器は万能ではなく、すべての病気を見つけられるわけではありません。また、すべての子にこれらの検査を行うことは、費用や動物の負担の面で現実的ではなく、またそこまで検査する必要性はありません。

検査機器より大切な問診と身体検査

お家での様子を聞く問診

問診は、患者さんにお話を聞くことでどこに異常があるのかを推測していくために必要な診察の過程です。ただし、動物はしゃべることができないため、動物の代わりに飼い主さんにお話を聞きます。問診は稟告(りんこく)とも呼ばれ、飼い主さんに問診することを「稟告を取る」と言います。

問診(稟告)は、普段の動物の状態やその変化を知るためにとても大切な診察の一部です。動物病院での状態だけでなく、家での状態を知ることは、ペットの病気を見つけたり、怪しい病気を絞り込むためにとても必要不可欠です。私も稟告を非常に重視しますので、いろいろお伺いすることが多いですが、面倒でもペットの異常の発見のために協力していただけると助かります。

五感をフル活用する身体検査

問診の後に行うのが身体検査です。身体検査は獣医師の五感を使って行う検査で、以下のようなことを行います。

  • 視診:目で見て異常を探る。呼吸の仕方や動き、皮膚の状態、粘膜の色など視覚でわかる異常を見極める
  • 聴診:心音や肺音、呼吸音、蠕動音など耳を使って異常を探る。聴診器を使うことが多い。
  • 触診:体を触って、皮膚の腫瘤や体の痛みの有無、関節の動きなどの異常を探る

五感のうち、味覚と嗅覚を使う検査の名前はありませんが、外耳炎や皮膚炎、歯周病などの異常を見つけるために嗅覚を使うことはあります。味覚を使うことは・・・基本的にはありませんね。

身体検査はその場ですぐに短時間で実施できるだけでなく、特別な機器を必要としないため、費用がほとんどかかりません。さらに、体全体を見ることができるため、そこで得た情報からどのような病気がありそうかを推測することができたり、身体検査だけで診断できる病気もいくつかあります。

当院の身体検査で発見された病気

さて、ここからが本題です。狂犬病予防接種を目的としてこられたわんちゃんで、病気が発見された例をご紹介いたします。

触診で発見できる乳腺腫瘍

避妊手術をしていない雌犬に圧倒的に多いのが乳腺腫瘍です。乳腺腫瘍は乳腺部分に固いしこりを作るため、基本的に触診だけで診断がつくケースが多いです。乳腺部分に固いしこりがあった場合、乳腺腫瘍以外の腫瘍や乳腺の過形成・異形成との鑑別が必要にはなりますが、経験上、触診だけで9割以上の正確性で乳腺腫瘍の診断は可能です。

乳腺にしこりが見つかったのは、5歳のトイプードルちゃん。狂犬病予防接種のために来院されました。体を触って第五乳腺(犬は左右5対の乳腺が存在する)付近に数㎜のしこりが数個あるのに気づきました。数週間前の混合ワクチン(他院)の時は指摘されなかったとのことでしたが、今回は明らかにしこりが見られました。

乳腺のしこりがすべて乳腺腫瘍というわけではありませんが、触診上は乳腺腫瘍の可能性が極めて高いと判断されました。飼い主様にはその旨をお伝えして、大きさが変化しないかどうか見てもらいつつ、手術のタイミングを考えることにしました。

ちなみに乳腺腫瘍の年間発生率にはさまざまなデータがありますが、10万頭当たり年間250頭(1000頭に2.5頭)というデータがあります。高くないように思えますが、これは避妊手術をしている犬も含めて1年以内に乳腺腫瘍が発生する確率です(10年生きればその発生率は1000頭に25頭に上がります)。早期に避妊手術をすると発生率が100分の1以下になることを考えると、避妊手術をしていないわんちゃんの乳腺腫瘍発生率はさらに高いものと思われます。避妊手術をしていない5歳以上のわんちゃんでは、スキンシップの一環としてお腹をしっかり触って、しこりがないかどうかチェックしておいてもらえるといいですね。

皮下陰睾(潜在精巣)

皮下陰睾(ひかいんこう)が見つかったのは1歳6か月のチワワちゃん。6か月齢でお家に来てから一度も動物病院にかかったことがなかったとのことです。今回は、やはり狂犬病予防接種で来院されました。

触診で睾丸を触ると、陰嚢(いわゆるたま袋)の中に睾丸が1つしか触れません。よくよく触ってみると、右の睾丸はペニスの横の皮膚の下に触れます。

犬の睾丸は生まれた時にはお腹の中にあり、生後2か月くらいで陰嚢の中に降りてきます。これを精巣下降と呼びますが、時に不十分になることがあります。このチワワちゃんの場合には、右の精巣が下降途中で止まってしまい、皮下陰睾になってしまっていたのです。

睾丸は精子を作る場所ですが、体温より低い温度でないと活動できません。そのため、腹腔内や皮下にとどまった精巣は精子を作ることができず、委縮してしまいます。それだけであればいいのですが、その精巣はがんになってしまうリスクが高くなります。3,000頭近い陰睾(腹腔内・皮下含む)の犬のうち5.7%(20頭に1頭以上)が精巣の腫瘍になったという論文があります。基本的には中年以降で腫瘍になるケースが多いため、それほど急ぐ必要はありませんが、早めに手術で睾丸の切除をすることをおすすめいたしました。

身体検査でわかる病気や異常は多い

乳腺腫瘍や潜在精巣だけでなく、膝蓋骨脱臼、臍ヘルニア、チェリーアイ、外耳炎、肛門嚢炎、歯周病、乳歯遺残……と普段の身体検査で偶然発見される病気は、数え上げればきりがありません。

身体検査は動物病院での診察の基本です。当院では、ワクチン(狂犬病および混合ワクチン)、フィラリア検査などの予防目的で来られた患者さんにも必ず身体検査を行います。身体検査は、今回ご紹介したように病気の早期発見につながるだけでなく、その子その子で少し違う元気な時の状態を知って置いたり、いつまでは問題なかったのかというデータを持っておくためにとても大切な検査です。

健康だと思うペットにも思わぬ病気が潜んでいることはあります。そのため、狂犬病予防接種のタイミングなど、必ず1年に1度は動物病院で身体検査を受けることをおすすめします。また、身体検査ですべての病気が見つかるわけではありませんので、特に6歳を超えるようなシニア世代のペットであれば、血液検査などの健診も定期的に受けられることもおすすめですよ。

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