完全室内飼いでもワクチンは必要?

今週、数日間通院していただいていた猫ちゃんがいます。その原因は猫風邪(猫伝染性鼻気管炎:FVR)。完全室内飼いのトラ君(仮名)ですが、猫風邪をもらってしまったようです。完全室内飼いの猫ちゃんのワクチンの必要性について考えさせられましたので、注意喚起の意味も込めて書かせていただきます。

トラ君の調子がおかしい

トラ君はまだ1歳になっていない元気な男の子。1週間ほど前に他院で去勢手術を済ませたばかりです。

そんなトラ君ですが、前日から少しくしゃみが出ていたそうで、来院当日は朝から呼吸が苦しく口を開けて呼吸をするようになってしまいました。岐阜市の北部にお住まいであり当院から少し遠かったのですが、多くの動物病院が休診になっている日曜日の午後ということもあり、当院を受診していただきました。

猫の開口呼吸は非常に危険

トラ君の詳しいお話の前に開口呼吸(かいこうこきゅう)について少しお話をさせていただきます。

開口呼吸は、その名の通り口を開けてする呼吸です。運動した後にヒトや犬も開口呼吸をすることが多いですが、猫が開口呼吸をする場合には、呼吸器系に何らかの異常があり、状態が悪いことが考えられます。

胸水や肺炎など重度の呼吸器疾患が原因であることも多く、開口呼吸は命の危険に直結する症状であることも珍しくありません。

トラ君の呼吸は・・・

来院したトラ君の様子を見せてもらうと・・・やはり開口呼吸をしています。「これは重症かも」と一瞬思いましたが、開口呼吸をしている割には呼吸の回数や深さなどには大きな異常は認められません。

身体検査を進めると、鼻が詰まってしまっているせいで呼吸がしずらく、口を開けて呼吸している可能性が高いと判断しました。

体温が40.3℃

呼吸が悪い子では体温を測ることすら時に危険ですが、トラ君の呼吸は落ち着いていたため、体温を測ってみました。するとなんと40.3℃。猫ちゃんの体温はヒトよりも高く、39℃くらいまでは平熱ですが、40℃を越えるのは明らかな発熱です。

念のためにレントゲンを

猫が口を開けて呼吸している場合には命に係わる異常があるケースも多いため、念のためにレントゲンを撮りました。

トラ君(仮名)のレントゲン写真。左がうつ伏せ(DV)右が右下(ラテラル)

胸水や肺炎を疑わせるような所見は認められず、特に大きな異常もなく一安心です。やはり口を開けて呼吸しているのは鼻が詰まって口呼吸しかできないせいだと考えられます。

原因は猫風邪と診断

飼い主様の希望もあり、身体検査とレントゲン検査の後に血液検査と猫エイズ/白血病(FIV/FeLV)の検査も行いました。血液検査には異常は認めず、エイズも白血病も陰性でした。

猫風邪とは

猫風邪は、猫伝染性鼻気管炎(FVR)という病名の猫ヘルペスウイルスによる伝染病です。人の風邪のウイルスとは異なり、人や犬にうつることはありません。

猫風邪は伝染力が強い

猫風邪は非常によく遭遇する猫の伝染病です。この病気が最も怖いのは、その伝染力の強さです。

猫風邪はヒトの風やインフルエンザと同じように飛沫感染(空気感染)をします。そのため直接の接触がなくても、猫風邪の猫ちゃんがしたくしゃみなどに乗って空気中に飛散したウイルスによって、他の猫に簡単に感染してしまいます。

ワクチンを打っていても感染してしまう

さらにヘルペスウイルスは、ワクチンを打っていても100%予防できるウイルスではないというのもやっかいな原因の一つです。例えば猫のパルボウイルス感染症(汎白血球減少症)はワクチンによりほぼ100%防ぐことができますが、猫風邪は人のインフルエンザと同じくワクチンを打っていても感染してしまうことがある病気です。

ただし、ワクチンを打っている猫では、たとえ感染してしまっても比較的軽い症状で治まることが多いです。

症状はヒトの風邪と似ている

猫風邪の症状はくしゃみや鼻水、目やになど人の風邪と似ています。ワクチンを打っていない猫ちゃんに毒性の強いウイルス株が感染してしまうと、今回のトラちゃんのように高熱が出て強い症状が出てしまうこともあります。

猫風邪は症状や経過で診断することが多い

猫風邪は、一般的には身体検査と問診のみで診断していくことが多い病気です。ウイルスの検査で確定診断を付けるケースもありますが、外部の検査センターに委託する必要があるため、診断までに時間と費用が多くかかってしまいます。大部分のケースではそこまでしなくても診断・治療が可能になります。難治性の場合や、典型的な症状や経過をたどらない場合には、ウイルスの検査で確定診断や除外診断をしていく必要があります。

治療は対症療法がメイン

猫風邪の治療は、対症療法を行うことが多くなります。発熱や食欲不振があれば点滴や解熱剤、二次感染を予防するための抗生剤などを使うことが多いです。原因であるヘルペスウイルスに対する抗ヘルペス薬(アシクロビル・ファムシクロビル)を使うこともありますが、高価な薬であることと、使わなくても治ってしまうケースが多いため、使用例は限られます。

今回のトラちゃんの場合には、40.3℃の発熱と鼻つまりが一番大きな症状であったため、そこを改善するために、消炎解熱剤渡航製剤の注射と点滴を行い、翌日来てもらうことにしました。

翌日の診察では、体温が38.3℃と平熱まで落ち着き、開口呼吸もなくなって食欲も出ているとのことでした。ただし、同居の猫ちゃんにも同様の症状(くしゃみ・39.5℃の発熱・食欲不振など)が発症し、一緒に連れてきていただきました。同居の猫ちゃんにも同じような治療をし、内服薬もお出しして様子を見てもらっております。

完全室内飼いの猫ちゃんにも猫風邪のリスクは存在する

トラ君は完全室内飼いですが、猫風邪にかかってしまいました。おそらく、手術のために動物病院へ行き感染してしまったものと思われます。

動物病院での猫風邪の感染は防げない

動物病院で猫風邪に感染してしまうのを100%防ぐ方法はありません。風邪やインフルエンザのように、飛沫感染する病気は、いくら注意をしていてもかかってしまいます。

完全室内飼いの子でも動物病院やペットホテルで他の猫ちゃんとの間接的な接触を避けられないことがあります。また、動物病院を受診する際には、何らかの病気で体調が悪く、免疫が下がっているケースも少なくないため、通常よりも猫風邪をもらってしまうリスクは高くなります。

トラ君のように手術時にも免疫力が下がるため、FVRに感染しやすくなります。

予防にはワクチンが有効

完全に防げるわけではありませんが、やはり猫風邪がうつってしまうリスクを減らすためにはワクチンを打つことが有効です。ワクチンを摂取していれば、感染のリスクを減らせるだけでなく、もし感染してしまっても強い症状を出さないようにすることができます。

大部分の猫風邪は命にかかわるような重症になることはありませんが、時に肺炎などを併発して入院が必要になったり、そのまま亡くなってしまうこともあります。「うちの猫は完全室内飼いだからワクチンは打たない」という飼い主さんもいますが、やはりいざという時のためにワクチンは必要ですね。

ワクチンの必要性を判断したうえで打つかどうかを考えよう

今回のトラ君のケースから、私自身も完全室内飼いの猫ちゃんのワクチンの重要性を再認識いたしました。

ただし、ワクチンをむやみにすすめるつもりはありません。ワクチンにも副作用があり、中にはワクチンを打つことで起こりやすくなる病気というのも報告されています。特に高齢の動物や何か持病を持っている動物の場合には、ワクチンを打つリスクがメリットより勝るケースもあります。

当院では、検査会社の協力を得てワクチンが必要かどうかを調べる抗体価検査も実施しております。また抗体価検査についても時間があれば記事にしますが、気になる方はご相談くださいね。

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