椎間板ヘルニアは突然に

先日、急に足腰に力が入らず震えているというジャックラッセルテリアちゃんの診察がありました。よくある症状ですので、ぜひ皆さんにも知っておいていただくためにご報告いたします。

昨日まで元気だったジャックちゃん

今回来院したのは6歳のジャックラッセルテリアのジャックちゃん(仮名)。

昨日まで何ともなかったのに今日になって急に調子がおかしいとのこと。元気がなく、震えて力が入らない様子だということです。食欲はあるけれど普段とは明らかに様子が違うため、飼い主さんはとても心配して連れてこられました。岐阜市の方ですが、その時は郡上におり、緊急的に岐阜まで戻って診察を受けてくださいました。

この症状、実は「椎間板ヘルニア」によく見られる典型的な症状なんです。もちろん、他にも同じような症状を起こす病気はありますので、症状だけで診断するわけにはいきません。

椎間板ヘルニアとは

椎間板ヘルニアとは、背骨(椎骨=頸椎・胸椎・腰椎など)と脊椎の間にある椎間板がヘルニアを起こす病気です。ヘルニアには「突出する」という意味があり、椎間板が飛び出て背中を走る神経(脊髄)を圧迫することで痛みやマヒを起こします。

椎間板ヘルニアは重症度によって症状が異なる

椎間板ヘルニアは、症状の強さによってGrade1~5までに分類されます。

Grade1:痛みによる症状あり。運動失調などのマヒはなし

Grade2:軽度のマヒによりふらついたり足を引きずる

Grade3:後ろ足を使って歩くことができない

Grade4:排尿排便障害が起こる

Grade5:深部痛覚(骨などで感じる痛み)の消失

グレードにより治療法や予後が異なる

上記のように椎間板ヘルニアといってもグレードによって大きく症状が異なりますが、それだけではなく治療法や予後についても大きく違います。グレードが低い場合には安静や内科的治療によって開腹する可能性が高く、グレードが高い場合には手術が必要になるケースが多くなります。

症状は急に出ることが多い

椎間板ヘルニアの症状は、多くの場合突然起こります。朝まで普通だったのに帰ってきたら足が立たなくなっていたなどといったことはよくあることです。夜間救急動物病院でも椎間板ヘルニアを疑うわんちゃんをたくさん見ましたが、急に元気がなくなり、震えて呼吸が荒くなったということで非常に心配される飼い主さんが多かった覚えがあります。

椎間板ヘルニアの原因である椎間板の変性は徐々に進行します。ただし、椎間板ヘルニアを持っていても症状が出ないケースが多く、何かのきっかけで痛みやマヒが突然起こるため、急に症状が現れて一気に調子が悪くなってしまいます。

基本的には命にかかわるものではないが・・・

椎間板ヘルニアは、痛みやマヒなどを起こす病気ではありますが、基本的には命に関わる病気ではありません。ただし、血栓塞栓症や腹腔内腫瘍の破裂、脊髄変性症など、椎間板ヘルニアと同じような症状を起こす病気で、犬の急死の原因となる病気は少なくありません。また、重度の椎間板ヘルニアの中の数%では、脊髄のダメージによって「進行性脊髄軟化症(しんこうせいせきずいなんかしょう)」という致死的な病気が引き起こされることもあります。

ジャックちゃんの場合

ではジャックちゃんのケースについてはどうだったでしょう。

身体検査では痛みのみ

ジャックちゃんが来院して、まずは身体検査を行います。体重・体温・視診・聴診など特別大きな問題はありません。

後ろ足の神経の状態を診るための簡単な神経学的検査を行います。固有位置感覚・踏み直り反応・跳び直り反応などの姿勢反応には大きな異常はありません。

次に首~背中~腰にかけて圧迫し、痛みがないかどうかを探ります。強い痛みがあると病状を悪化させることがあるためまずは軽く押していきます。特に痛がる場所やディフェンス反応(痛みがある場所を守るために筋肉にギュッと力を入れる反応)がみられる部位はありません。そこでもう少し力を入れて押してみると・・・腰の中央部辺りにディフェンス反応があり、そこを押すと少し振り向く動作が見られました。その部位に痛みがある可能性が高そうです。

レントゲン検査

そこで、何か異常がないかどうかレントゲン検査をしました。

レントゲン検査では椎間板ヘルニアは確定診断できない

椎間板ヘルニアを疑う場合、レントゲン検査を実施することは多いものの、レントゲン検査では確定診断を付けることはできません。

軟骨である椎間板は、レントゲンではうつらず透明に見えてしまいます。椎間板ヘルニアの確定診断のためには、脊髄造影検査、CT検査、MRI検査などが必要になりますが、どれも全身麻酔が必要になりリスクや費用の負担が大きい検査です。そのため、その代わりとしてレントゲンを撮ります。

レントゲン検査をする意味

レントゲン検査を取るのには以下のような意味があります。

  • 椎間板ヘルニアの疑いが高いかどうかがわかる
    椎間板ヘルニアがあると、椎間板が変性して白く見えたり、突出した椎間板の部分だけ細く見えたりします。レントゲンだけで椎間板ヘルニアは確定はできませんが、どの部位にヘルニアがある可能性が高いのかということがわかることは多いです。
  • 骨や内臓などの異常がわかる
    腰の痛みや後ろ足のマヒなど椎間板ヘルニアと同じような症状があっても、椎間板ヘルニア以外の病気である可能性もあります。椎間板脊椎炎や椎体腫瘍、変形性脊椎症、腎結石など椎間板ヘルニアと同じような症状を出す病気がないかどうかを見るという意味もレントゲン検査にはあります。

ジャックちゃんのレントゲン検査

ジャックちゃんの実際のレントゲンを見てみてください。

 

このレントゲンはジャックちゃんを仰向けにして撮った写真です。上が頭側、下がお尻側で、デジタルレントゲン(DR)での処理により、腰の辺りを拡大しています。

立てに4つ並んでいる四角いものが腰椎です。腰椎の隙間の黒い部分に椎間板があります。この椎間板の部分をよくよく見てみると・・・一番上と下の隙間に比べ、真ん中2つの隙間(特に上から2番目)が狭くなっています。つまりこの部位の椎間板が変性を起こして、ヘルニア(突出)している可能性が高いと判断しました。

治療は痛み止めと安静

以上から、診断名は「椎間板ヘルニアGrade1の疑い」となりました。

グレードが高くないことから、内科的な治療が有効と判断し、痛み止めと安静で様子を見てもらうよう指示いたしました。

翌日再診に来ていただいたときは、前日元気がなかったのがウソのようにぴんぴんしていました。前日の段階では元気がそこまで内容には感じませんでしたが、確かにもともとこれだけ元気なジャックちゃんが、元気がなければ心配される気持ちはとてもよくわかります。経過が良かったので、再発や悪化の可能性を伝えた上で、鎮痛薬を処方して経過観察としました。

椎間板ヘルニアは突然に

「朝までとっても元気だったのに」など、椎間板ヘルニアの症状は非常に突然出て来ることが多いです。

椎間板ヘルニア自体は命にかかわるものではありませんが、危険な病気と症状が似ており、さらには初期治療が遅れると治りが悪くなってしまうこともあります。急な痛みやマヒ、震えなどが出てきた場合には早めに動物病院を受診することが大切です。

ジャックちゃんのように震えやふらつき、息が荒いなどの症状がある場合には、安静にしつつできるだけ早めに動物病院を受診するようにしてくださいね。

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