高齢の小型犬は要注意!咳を起こす心不全と肺水腫

フィラリアの検査や狂犬病で来院いただける患者さんが増えてきましたが、その中で思わぬ重病が見つかるケースも少なくありません。今回は、狂犬病予防接種のために来院された高齢のチワワちゃんの心不全と肺水腫のケースをご紹介します。

狂犬病予防接種と診察を兼ねて受診

今回ご紹介するのは12歳のチワワ、ハッピーちゃん(仮名)。そろそろ狂犬病の時期なのでと来院されました。しかし、高齢になってから咳をするのが気になっていること、昨日は咳が激しく眠れなかったということで、診察を兼ねて受診されました。

昨年までは往診で狂犬病を打っていたけれど、今年はそれが無くなり、ご自宅の近くにできた当院に受診していただいたという経緯があります。

今まで狂犬病以外で動物病院を受診することはなく、全く健康に過ごしてきたわんちゃんです。

身体検査から咳の原因を考える

院内でも咳が出る

待合で少しお話を聞いていると、ハッピーちゃんが咳をしました。時々「犬の咳ってどんなもの?」と聞かれることもありますが、わんちゃんの咳にはその原因によっていろいろなタイプのものがあります。

ハッピーちゃんの場合は、「ケッケッ、オェー」という感じで咳をした後に何かを吐くような動作をする咳でした。飼い主さんにお話を聞くと、この咳を夜中中繰り返していたとのことです。後で書きますが、実はこれはかなり心配な症状です。

スリルを確認

狂犬病の予防接種やフィラリアの検査でも当院では必ず身体検査を行います。咳が気になるということもあったので、興奮して呼吸が悪化しないよう少し体をさわります。すると、胸を触った時点で異常に気付きました。

素の異常が「スリル」と呼ばれる身体検査所見です。スリルとは心臓の異常な音のこと。心臓の音は基本的には聴診器で確認しますが、スリルは胸(胸壁)を触っただけでわかる異常な心臓の音です。心臓が悪くなると心雑音が聞こえてきますが、ある一定以上の心雑音が出てくると胸壁を触っただけで雑音がわかるスリルを蝕知することができます。

肺の音にも異常が

そこで全身を触ったのち、聴診器で胸の音を聞いてみます。予想した通り心臓には大きな雑音があります。

さらに呼吸の音を聴診器で聞いてみると、「ラッセル音」という異常呼吸音も確認されます。肺の音(呼吸音)に異常がある場合には肺にも何か異常がある可能性が高いです。大きな心雑音があることを考えると、心不全からの肺水腫が最も疑われます。

レントゲン検査

心不全からの肺水腫が疑われる場合、もっとも有効な検査はレントゲン検査です。レントゲン検査ではわんちゃんを少し抑える必要がありますが、心臓が悪く、肺水腫が疑われるケースでは少し注意が必要です。まずは負担の少ないDV(伏せの態勢)の撮影を行いました。

これが実際のレントゲン画像です。真ん中の白い陰影が心臓です。心臓のサイズは正常な犬よりかなり大きくなっており、心拡大が確認されました。

また、レントゲンでは空気が黒く映るため、空気を含む肺は正常では黒く映ります。このレントゲン画像では、心臓の右(左肺)は黒く映っているものの、心臓の左(右肺)はほぼ真白になってしまっています。

肺がレントゲンで白く映るのは、肺に液体が溜まっているサインになり、肺水腫以外には肺炎などの可能性もあります。今回は、心音や肺音、症状や経過などから心原性肺水腫(心臓に原因のある肺水腫)と診断しました。

レントゲンは本来であればDV(縦)とラテラル(横)の2方向からとるのが望ましいですが、DVで重度の肺水腫が確認されたため、ラテラルの撮影は断念しました。重度の肺水腫があると、レントゲン撮影で保定することで病状が一気に悪化して危険なケースが少なくないためです。

心原性肺水腫の治療

心原性肺水腫の治療は投薬治療ですが、大きく分けると3つの目的を持つお薬を使います。

利尿薬

肺の水を抜くためには利尿薬が必要になります。利尿薬は緊急薬として使うこともありますし、肺水腫の予防として毎日の飲み薬として使うこともあります。

ラッキーちゃんは重度の肺水腫が疑われたため、注射で強めに利尿剤を使用しました。

血管拡張薬

肺に水が溜まってしまうのは、心不全による循環不全により、肺の血管にうっ血してしまうためです。

血管拡張薬により血管を広げてあげることで、血圧を下げてうっ血を抑えるための薬が血管拡張薬です。

強心薬

肺のうっ血を取るためには心臓の動きを良くしてあげないといけません。そこで、強心薬も心原性肺水腫の治療には非常に重要です。最近では、ピモベンダンと呼ばれる非常に使い勝手の良い強心薬を使う機会が非常に増えてきました。ピモベンダンは共振作用と血管拡張作用を併せ持ち、重度の心不全だけでなく、初期の心不全に使うことで予後が改善するというデータも出ています。

今回、ラッキーちゃんには、ピモベンダンと血管拡張薬のベナゼプリルを配合したフォルテコールプラスというお薬を処方しました。

翌日の再診

最初の日には注射と飲み薬で治療をし、少し咳がましになったことを確認して帰宅していただきました。そして翌日の再診時のレントゲンです。

左が翌日、右が初診時のレントゲン写真です。初診時に水が溜まって白くなってしまっていた右の肺(右の写真の矢印部分)は、翌日のレントゲン写真では黒くなっています(左の写真矢印部分)。

このレントゲン写真の比較からわかることは、初診時に水が溜まってしまっていた右肺に、翌日にはしっかり空気を取り込めるようになったということです。まだ咳は多少はあるとのことですが、かなり少なくなり、何より動きが非常に活発になったと飼い主様は喜んでおられました。

心不全は身体検査で見つけられる?

犬のほとんどの弁膜症は聴診で発見可能

心不全にもさまざまなタイプがありますが、高齢の小型犬に非常に多い弁膜症(僧帽弁閉鎖不全症など)のほとんどのケースでは、心臓の聴診で雑音が聞こえてきます。心雑音は弁膜症の症状が出てこないような初期段階でも聴取されます。

僧帽弁閉鎖不全症は、初期でも基本的に聴診で発見が可能であり、毎回の聴診が非常に重要になります。

ハッピーちゃんはいつから発症していたのか?

ハッピーちゃんは、当院の初診時にはすでに肺水腫を起こしているというかなり進行した弁膜症でした。僧帽弁閉鎖不全症は数か月から数年かけて徐々に進行するケースが多く、1~2年前には雑音があった可能性があります。

チワワちゃんの弁膜症は時に一気に進むケースがありますが、それでも毎年聴診をしていて1年前には全く雑音がなかったのに、1年後にかなり進行した心雑音が聞こえるというケースは非常にまれです。

予防目的で来院する高齢の小型犬の1割以上に心雑音

当院では狂犬病予防接種やフィラリア検査、混合ワクチンなど病気以外の診察でも必ず身体検査を行います。聴診も身体検査の項目の1つになります。

その中で開業から3カ月の間に、予防目的で来院され、心雑音が発見されたのはハッピーちゃん以外に3頭(すべて7歳以上の小型犬)います。以下のように、その状態はさまざまで治療方針も異なっています。

・軽度の心雑音で症状なし→家でしっかり様子を見つつ3か月~半年に1度、身体検査をさせていただくように指示

・中等度の雑音で症状なし→レントゲン検査により軽度の心拡大を確認→飼い主様と相談し、2か月後に再診

・中等度の雑音でたまに咳が出る→レントゲン検査で心拡大を確認→内服スタート(現在症状は落ち着いている)

カルテを調べてみると、3カ月の間に当院を受診していただいたわんちゃんは100頭を越えましたが、その中で7歳以上のシニアのわんちゃんが51頭います。予防目的で来院した7歳以上の小型犬は30頭ほどであり、そのうち4頭に心雑音が見つかっています。つまり、予防目的で来院した高齢の小型犬の1割以上に心雑音が見つかったということになります。

高齢犬では半年~1年に1度は必ず身体検査を受けよう

以上のように、心不全は高齢の犬で非常に多い病気であるとともに、命の危険のある非常に怖い病気です。心不全は基本的に完治しない病気(最近では心臓手術による根治療法が行えることもあります)ではありますが、その状態に合わせて薬を使うことで長く元気に生きられることも多いです。

心不全を含め身体検査だけでわかる病気は少なくありません。実際に、ワクチンで来院していただいた動物に、身体検査で乳腺腫瘍や潜在精巣など今まで指摘されたことのなかった病気が見つかることも多いです(こちらの記事も参考にしてください)。身体検査だけでわからない病気もありますので、高齢のわんちゃん猫ちゃんでは血液検査などの健診を受けてもらうことはおすすめですが、最低限半年から1年に1度は身体検査を受けるようにしてください。当院では一般的な身体検査は診察料(再診料)に含まれており、毎回追加料金はかかりません。

わんちゃん猫ちゃんも高齢化が進んでいます。元気にさらに長生きしてもらうため、動物病院で身体検査をしてもらってくださいね。

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