消化管内異物の対処法~嘔吐が続くトイプードル

今回は、先日当院を受診した消化管内異物のトイプードルちゃんについてのお話です。

トイプードル 2歳 嘔吐が続く

今回ご紹介するわんちゃんは、トイプードル2歳、ラッキーちゃん(仮名)です。

ゴールデンウィークの前におう吐や震えなどの症状があり、動物病院(他院)を受診。血液検査とレントゲン検査を行い、CRP(炎症の数値)が高い以外には異常は見られなかったため、嘔吐の対症療法を実施。いったん調子が戻りゴールデンウィークは調子よく元気に過ごしていたとのことです。

しかし、当院受診の前日から嘔吐や震え、食欲廃絶などがあり、明らかに調子がおかしいと飼い主さんが判断し、来院されました。

当院での検査

ラッキーちゃんが来院してからの流れは以下の通りです。

身体検査

病気でも予防でも、当院を受診した動物の診察は問診と身体検査から始めます。身体検査では以下のような所見が得られました。

  • 体温:39.4℃
    わんちゃんの平熱は38~39℃です。動物病院で緊張するとやや高くなることがあるので、39.4℃は微妙な体温です。明らかな発熱ではありませんが、若干発熱がある可能性はあります。
  • 腹部触診:明らかな痛みや張り、触診できる異物はなし。
    嘔吐が続く犬で腹部の触診は大変重要です。痛みや張りがあったり、時には消化管内異物を触ることもできます。院内の検査では痛みや張りはありませんでしたが、お家ではお腹を触るなどの腹痛の症状があったということです。院内で緊張していると痛みの反応が鈍くなることがありますので、腹痛がないとは言い切れませんが、明らかな腹痛は認められませんでした。
  • 元気がない(沈鬱)
    身体検査で最も私が気になったのが、ラッキーちゃんの元気のなさです。普通のわんちゃんは診察台の上でしっぽを振って愛想を振りまくか、ぶるぶる震えて怖がっているかのどちらかです。ラッキーちゃんは多少怖がってはいるものの、警戒心を見せるというよりも体がだるそうにしています。
    そして、前足を折りたたんで伏せの態勢をしてしまいました。私は10年以上獣医師として働いていますが、重症の子を除いて診察台の上で足を折りたたんで伏せをした子を見たことがありません。専門用語では「沈鬱」や「傾眠」などと呼ばれる症状です。

飼い主さんからもいつもと明らかに違うというお話がありましたので、相談の上検査を進めていくことになりました。普段の元気具合などは初めて診察した私にはわかりませんので、飼い主さんのこういったお話は、たとえぼんやりとした内容でも非常に重要になります。

超音波検査

他院では血液検査とレントゲン検査は行っていますが、超音波検査は行っていないようでした。そこで、当院ではまず超音波検査を行うことにしました。

胃腸の病気の検出に有効な超音波検査

超音波検査は10数年前までは胃腸の検査には向かない機械だと言われてきましたが、最近では超音波検査装置の高性能化により、胃腸の病気の検査に非常に有用なツールになってきています。

場合によっては、超音波検査だけで胃腸の異物や腸閉塞などを診断することもできます(100%できるわけではありません)。

ラッキーちゃんの胃の中に怪しい影が

ラッキーちゃんのお腹に超音波を当ててみると・・・

この画像は、ラッキーちゃんの胃の中です。仰向けになって超音波を当てていますので、上がお腹側、下が背中側になります。お腹側の真ん中あたりに白いものが見えて、その奥(下)が真っ黒に抜けています。

このような見え方はシャドーイングという現象です。胃の中に超音波ビームを通さない異物があり、その異物のせいでその奥に超音波ビームが届かず黒く抜けて見える現象である可能性が高いです。ただし、胃の中に何かあるだろうというのはわかりますが、それが単なる毛玉やフードの残りなのか、異物なのかは不明です。ラッキーちゃんは昨日はまったく食べていないという話でしたので、フードの可能性は低く、異物の可能性が高いと判断しました。

レントゲン検査

胃腸内異物が疑われる場合は、やはりレントゲン検査は必須です。

レントゲン検査では、ビニールや繊維などはわかりませんが、金属製のものや石、大きなおもちゃなどは写ることがあります。

レントゲン検査をしてみると、右上の方に見える胃の中に何か写っています。黒い丸い部分は胃の中のガスで、その中に白く見えるのが異物を疑う物体です。フードを食べていればこのように写ることがありますが、何も食べていないのにこのように写る場合には、胃の中に停滞する物質が疑われます。

胃腸内異物が疑われる場合の選択肢

胃腸内異物が疑われる場合には、以下のような選択肢を取ります。

さらに検査を進める=バリウム検査・CT検査

胃腸内異物が疑われるけれど、本当にそうなのかわからない場合には、さらに検査を進めます。今回はバリウム検査やCT検査は行っておりませんが、それらの検査の外用は以下の通りです。

バリウム検査

バリウム検査は犬にそれほど負担の少ない検査ですが、

・丸1日かかる

・その後の手術や内視鏡がやりにくくなる

・嘔吐してしまうと結果がわからない

・ひも状異物があってもわからないことが多い

というデメリットがあります。バリウム検査は、異物が疑わしいけれどすぐに手術をするほどではない場合や、麻酔をかけたくない場合の選択肢になることが多いです。

CT検査

CT検査は、異物の診断には非常に有用です。ただし、

・全身麻酔が必要(無麻酔CTができる施設もあります)

・CT撮影が施設が限られている

・費用が高い(数万円)

・治療ではない(内視鏡のように治療を兼ねることができない)

などから一般的にはCT検査をすることは少ないです。異物も怪しいが腫瘍の可能性もあるなど、慎重な診断が必要になる場合には、CT検査を行うことがあります。

内視鏡検査

内視鏡は胃カメラという名前でよく知られています。人では検査のためにいかめらをおこなうことが多いですが、犬や猫では異物の除去のためにも使うことが少なくありません。内視鏡は以下のようにメリット・デメリットがあります。

内視鏡のメリット

・検査と治療を兼ねれる可能性がある

内視鏡は胃の中を観察するだけでなく、異物があった場合には内視鏡で摘出ができることがあります。

・開腹手術よりも負担がかなり少ない

内視鏡で異物を摘出できれば、動物への負担は最小限です。手術の場合は数日入院が必要ですが、内視鏡での摘出であれば日帰りでできることも多いです。

内視鏡のデメリット

・全身麻酔が必要

人では無麻酔で胃カメラを行いますが、動物では無麻酔で胃カメラを行うことは不可能です。全身麻酔が必要になります。

・内視鏡で摘出できないものも少なくない

内視鏡で異物が見つかっても、必ずしも摘出できるわけではありません。以下のようなものは内視鏡では摘出できず、開腹手術が必要になります。

  • 大きすぎるもの(胃の入り口=噴門を通過できないため内視鏡で引っ張り出せません)
  • 掴めないもの:石やボールなど掴めないものも内視鏡でとりだせない
  • すでに十二指腸に流れてしまっているもの

開腹手術

開腹手術にも以下のようにメリットデメリットがあります。

開腹手術のメリット

・手術ができる施設であれば基本的にはどの動物病院でもできる

・内視鏡で摘出できないものでも摘出できる

開腹手術のデメリット

・負担が最も大きい

・開腹手術をしても異物がないことがある

・数日間の入院が必要

・費用も内視鏡より高くなる

ラッキーちゃんの場合

ラッキーちゃんの場合は飼い主様と相談の上、内視鏡を行うことになりました。ただし、当院には内視鏡の施設がないため、お世話になっている動物病院をご紹介させていただきました。

内視鏡から開腹手術へ

本日お昼に内視鏡をしていただけることになり、見学させていただきました。

内視鏡で異物が見つかりましたが、どうやっても摘出できず開腹手術に移行しました。実際に開腹してみると、異物は胃~小腸まで流れており、胃を1カ所、小腸を3カ所切開して異物を摘出するという大変な手術になりました。取り出した異物は、髪の毛や植物の繊維などが絡み付いて塊になったようなものでした。その一部が腸に流れたのですが、運悪く長いひものようなもので胃の中の塊と腸に流れた塊がつながってしまい、閉塞を起こしたという少し珍しいタイプの腸閉塞だったようです。

手術時にはすでに腸の一部に血行障害を起こしており、あと1,2日遅ければ腹膜炎を起こし命の危険があったと思われます。急なお願いにも関わらず、内視鏡からそのまま開腹手術をしていただいた紹介先の動物病院には本当に感謝です。

ラッキーちゃんは現在入院中

ラッキーちゃんは現在手術を行っていただいた動物病院に入院中ですが、少しずつ回復してきているようです。胃腸を切開する手術をすると、その後腹膜炎を起こしたりするケースがあるため、まだまだ注意は必要ですが、まずは一安心です。

胃腸を切開した場合は、通常数日入院が必要になります。

まとめ

犬や猫が異物を食べてしまい、腸閉塞を起こしてしまうことは少なくありません。飼い主さんが何か食べたのを気付いて診断できるケースもありますが、今回のように大きなものを食べていなくても小さなものを大量に飲み込んで胃の中で塊になってしまうケースや、大きなものを食べていても飼い主さんが気付かず腸閉塞を起こしてしまっていることもあります。

消化管異物の大半はレントゲンにはうつらず、時に診断が困難になります。診断方法はその時の状態によりますが、エコーやバリウム検査、CT検査、さらには内視鏡検査や実際に手術をする「試験的開腹術」というものまであります。命を落としてしまうことも少なくない、消化管内異物と腸閉塞、気になることがある場合は様子を見ずにすぐに動物病院へ連れてきてくださいね。

 

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