意外に怖い冷えピタの誤食

本日、お昼の時間外にお電話がありました。

「子供に貼っていた冷えピタを犬が食べてしまった」

かなり小さめの冷えピタだったようですが、危ないところだったのでお話しておきたいと思います。

異物の誤食の対応

犬や猫が、食べ物以外の異物を食べてしまうことは多いです。当院でも毎週のように異物の誤食症例を診察しており、この半年の間にすでに3回も催吐させたわんちゃんもいます。

吐かせられるものは吐かせる

異物の誤食の対応でもっとも確実なのは吐かせることです。吐かせることで中毒や腸閉塞のリスクを無くすことができます。具体的に吐かせるものとしては

  • 中毒や腸閉そくのリスクが高い
    放置しておくことで中毒や腸閉塞のリスクが高いモノの誤食は、催吐処置の適応になります。逆に玉ねぎのみじん切り一つやティッシュ1枚くらいであれば、中毒や閉塞のリスクが少ないので吐かせることはしません
  • 胃や食道に刺さるリスクがない
    催吐で怖いのは、吐かせたときに胃や食道に刺さることです。竹串や針、鳥の骨などは催吐することで刺さるリスクがあるため吐かせません
  • 吐かせられる可能性が高い
    吐かせられる可能性が高いものは催吐しますが、催吐しても吐けない可能性が高ければ対象外になることもあります。具体的には、すでに嘔吐をしているのに吐かない場合や、中毒性の物質を食べてかなり時間がたってしまっている場合です。

内視鏡による摘出

竹串や針など、胃や食道に刺さる可能性のあるものは吐かせることができません。その場合には内視鏡による摘出を考えます。ただし、当院には現在のところ内視鏡の設備がないため、内視鏡のある動物病院を紹介させていただいております。

経過観察

催吐ができず内視鏡もできない場合には、経過観察を行うこともあります。経過観察を行う理由にはいくつかありますが、

  • 便に出てくる可能性がある
  • 強い中毒症状が出る可能性が低い

などと言ったことが挙げられます。その場合には、数日間は腸閉そくの症状がないか、中毒症状がないかどうかをしっかり観察してもらう必要があります。

開腹による胃切開・腸切開

以下のような場合には、手術をして取り出すこともあります。

  • すでに腸閉塞を起こしている
  • 針や竹串などで刺さっている可能性が高い
  • 催吐はできないが、放置しておく危険性が高い(尖った大きな石など)

冷えピタはどうなの?

では、今回の症例、冷えピタの誤食について考えてみましょう。

冷えピタのリスク

冷えピタの成分には、中毒を起こすものは含まれていないようです。そのため、冷えピタの誤食のリスクは腸閉塞ということになります。

腸閉塞を起こすかどうかは基本的にはその異物の形と大きさになりますが、冷えピタは「かなり膨らむ」という危険性があります。そのため、食べたサイズが小さくても腸閉塞を起こすリスクが高いということを覚えておいてください(私も今回初めて実感いたしました)

冷えピタはおいしい?

冷えピタの成分には、甘い味のするグリセリンやココナッツオイル由来のポリソルベート80が含まれており、犬には匂いが良くおいしく感じるようです。誤食に注意が必要なものですね。

以下のリンクの動物病院のホームページには、冷えピタの誤食やそれに伴う腸閉塞の手術の例が載っています。併せて参考にしてみて下さい。

http://inada-vet.sblo.jp/article/62647969.html

今回の処置内容

では、今回の処置についてご紹介いたします。

緊急来院

今回、最初に紹介したお電話をいただいたのがお昼2時。病院の休診時間です。

お電話では直径3㎝弱の冷えピタを食べてしまったとのお話であったため、一瞬「便から出るのでは?」とも思いましたが、実はこのトイプードルちゃんは一度異物の閉塞により腸切開を行ったことがあるという経緯があります。切開を行った部位の腸は狭窄を起こしてしまうため、その部位で詰まってしまったら大変です。

飼い主様にそのあたりのお話をし、「便に出る可能性もあるけれど吐かせた方が安心」と伝えて緊急来院していただきました。

身体検査

まず、診察をするときには異常がないかどうか身体検査を行います。同じ催吐処置を行う場合でも、何か異常があれば、催吐のリスクが上がることもあります。身体検査では特に大きな異常は認められませんでした。

飼い主さんにもう一度確認をし、催吐の方法や考えられるリスクなどをお話ししたうえで催吐処置へと進みます。

催吐処置

当院で行う催吐処置は、以下のような手順で行います。

  1. 静脈留置の設置
    薬を確実に入れるため、前足の血管に静脈留置針を入れます。
  2. トラネキサム酸の静脈注射
    設置した静脈留置針から、トラネキサム酸(止血剤)を注射します。トラネキサム酸は体内の濃度が急速に上がると吐き気を引き起こすため、その副作用を利用し、催吐処置によく用います。
  3. 嘔吐したら吐物の確認
    今回のプードルちゃんは注射後約2分で嘔吐しました。その中に入っていた冷えピタがこちらです。
    写真だとわかりずらいですが、直径5㎝以上、飲み込んだ時の数倍の体積に膨れ上がっています。
  4. 吐き気が収まったら留置針を取って処置終了
    今回は来院から催吐処置終了まで約10分、その後飼い主様の希望もあり爪切りをして元気に帰宅できました。

当院の催吐症例

催吐した異物の一覧

開院から現在まで5か月ちょっと、今までに当院で催吐した症例を思い出せる範囲で書かせていただきます。

  • チョコレート
  • 玉ねぎ
  • ネギ
  • キシリトールガム
  • トウモロコシ(芯ごと)
  • ホウ酸団子
  • 人間の薬
  • 靴下
  • シュシュ
  • バンダナ
  • 消しゴム
  • ひも
  • ヘアゴム

催吐の成功率は?

現在までのところ、催吐が有効と考えて当院で催吐の処置をした場合の成功率は100%です。代診時代など他の病院での経験を合わせても、催吐剤で嘔吐しなかったのは2例のみで、おそらく95%以上で成功していると思います。ある調査では、トラネキサム酸の催吐による嘔吐率は98%と言われており、やはり高確率で吐かせられる方法になります。

ただし、

  • 猫での催吐成功率は50%を切る(現在までのところ、当院では犬の催吐処置の症例ばかりです)
  • 生後半年以下の若齢犬では成功率が低下する(当院では4か月のダックスフントでは催吐が成功しています)
  • 極度の興奮状態の犬でも成功率が低下する

と言われています。

催吐の副作用は?

私個人の経験としては、催吐による副作用の経験はありません。トラネキサム酸による催吐処置の副作用にけいれん発作が報告されています。その数は100頭に1頭以下とかなり珍しいのですが、私の知り合いの獣医さんはトラネキサム酸によるけいれん発作を経験している人もいます。けいれん発作が出てしまった場合には、静脈留置針から発作を抑えるお薬を打つことで対処が可能だと言われています。

トラネキサム酸以外の催吐処置の方法として、オキシドールを飲ませるという方法を取る病院もあるようです。オキシドールによる催吐は、静脈留置針を設置しなくてもいいため、手間が少ないというメリットはありますが、胃腸を激しく荒らしますので、処置後の嘔吐や下痢、腹痛、食欲不振などの副作用が多く出ます。そういった理由もあり、当院ではトランサミンの注射による催吐処置を行っています。

便に出てくる(こともある)異物例

参考までに当院で経験した、便に出てきた異物は以下の通りです。

  • フェイスパック
  • 竹串

これらの異物は、運よく腸管を通過して出て来たものになりますが、閉塞する可能性も十分あるものになります。催吐や内視鏡など、その前に対応できるのがベストであることは頭に入れておいてください。

まとめ

犬や猫では異物の誤食事故は多いです。一度やったことのある動物では何度もやってしまうケースは多く、一度でも変なものを食べてしまったことのある動物ではかなり注意が必要です。

異物の誤食の際の対処法として、催吐処置は動物の負担や飼い主さんの経済的負担の少ない処置になります。催吐するかどうかは、その異物の種類や大きさ、経過時間や症状などによって違います。今回の冷えピタように、食べたときに小さくてもお腹の中で膨らんで閉塞してしまう可能性のあるものもあります。何か変なものを食べてしまったと思った時には、必ず動物病院へ相談するようにしてください。腸閉塞や中毒の症状が出てしまってからでは手遅れになってしまうことも珍しくはありませんので。

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