嘔吐の後の呼吸困難~危険な誤嚥性肺炎に要注意

犬や猫の肺炎には原因がいくつかありますが、その中でも「誤嚥性肺炎(ごえんせいはいえん)」は突然の発症と急激な経過をたどる、注意が必要な肺炎です。

特に激しい嘔吐の後や、子犬・子猫・高齢動物・病気を持つ犬猫など免疫力が弱っている動物に注意が必要なのが誤嚥性肺炎。あまり聞きなれない病名かもしれませんが、意外に多い誤嚥性肺炎についてについて知っておきましょう。

症例:激しい嘔吐で来院の10か月齢のチワワ

今回ご紹介するわんちゃんは、10カ月齢のチワワちゃん(こちびちゃん:仮名)です。

「夜中に激しい嘔吐」と朝イチの入電

こちびちゃんの飼い主さんからお電話があったのが朝8時ころ。「夜中に激しい嘔吐をして、調子がかなり悪そう」とのお電話でした。

状況はわかりませんが、緊急性は高そうです。すぐに来院してもらうよう指示をし、急いで病院へ向かいます。

まずは身体検査・問診

病院に到着して準備をしていると、間もなくこちびちゃんと飼い主さんが到着しました。

すぐに診察室に入ってもらい、簡単な身体検査を行います。その時点で1秒を争う緊急事態ではないことがわかり、少し落ち着いてお話を伺います。

夜中の突然の激しい嘔吐

こつぶちゃんは前日までは特別大きな異常はなかったものの、夜中に激しい嘔吐を何度も起こし、その後、元気がなく呼吸も洗いとのことです。嘔吐はその後数時間は止まっているようです。

嘔吐の心当たりを聞くと、「色々なものを食べてしまう」という癖があるとのことでしたので、異物の誤食も疑われます。

身体検査では大きな異常なし

こつぶちゃんは確かに元気がなく、呼吸が早く若干肺の音が荒いものの、チアノーゼ(舌の色が紫色になる状態)や呼吸困難はありません。また、心臓の音には異常はなく、明らかな腹痛や病院内での吐き気もありませんでした。

全身状態のチェックのための血液検査とレントゲン検査

問診と身体検査からは一番怖いのは異物による腸閉塞です。そこで、まずは全身状態のチェックや異物の可能性を見極めるために、血液検査とレントゲン検査を行いました。

血液検査ではわずかな炎症の数値の上昇

血液検査を行う理由は全身状態のチェックや特定の病気の可能性の診断です。今回の経過からは異物の誤食などが一番に疑われますが、その他急性膵炎や急性肝炎、中毒なども疑われます。また、腸閉塞から腹膜炎を起こしている可能性もあるため、これらのチェックのために血液検査は必要です。

血液検査では、軽度のCRPの上昇(0.9mg/dl:正常値0.7mg/dl以下)以外には大きな異常は認められず、現時点で重度の腹膜炎や中毒などの可能性は否定的な結果でした。

レントゲン検査で腸内に異物

次に、レントゲン検査の結果が以下の通りです。 

お腹の真ん中あたりに見える、白い金属のようなもの、実は「ホチキスの針」です。ホチキスの針だけであればそのまま便の中に出てくる可能性が高いですが、レントゲンにはうつらないような布やナイロンなどがくっついている場合には腸閉塞の危険性があります。また、ホチキスの針が胃や腸を傷つければ腹痛や嘔吐の原因には十分なり得ます。

今回は、ホチキスの針がすでに大腸まで流れていること、レントゲンで腸閉塞やそのほかの異物の可能性が低そうなことから、飼い主さんと相談し、胃腸のケアなどで様子を見ることにしました。

その日に便は出て異物は消える

飼い主さんの希望もあり、その日は夜までお預かりすることになりました。

昼頃に排便があり、レントゲンでうつっていたホチキスの針も一緒に出てくれました。便の中にはホチキスの針以外の異物は見つかりませんでした。

預かり中に胆汁の混じった胃液を一度嘔吐しましたが、夜までの間、嘔吐はその1回きりでした。ただし、呼吸が荒いのは続いており、誤嚥性肺炎の疑いもあったため、抗生物質の投与と制吐剤(再度嘔吐して誤嚥するのを防ぐため)を使って、次の日再診としました。

翌日~嘔吐は止まったものの呼吸が荒いのが続く

翌日、こちびちゃんは予約の時間に来てくれました。

お家では嘔吐は止まったものの、呼吸が荒いのはあまり変わらず元気は全然ないとのことです。誤嚥性肺炎の可能性を強く疑い、再度血液検査とレントゲン検査を行いました。

血液検査ではCRPの上昇(>7.0mg/dl)が確認され、レントゲン検査では右肺野(レントゲン写真の左側)の不透過性の亢進が確認されました。

以上の結果より、「異物の誤食による嘔吐およびそれに伴う誤嚥性肺炎」という診断にいたりました。誤嚥性肺炎の場合、血液検査やレントゲン検査などで異常が現れるのが少し遅れることが多いです。

こちびちゃんの場合には

  • 嘔吐も止まり食欲も少しずつ出てきている
  • 身体検査で腹痛がない
  • 腹部エコー検査で閉塞や異物の所見がない

ことから、異物による影響はすでにほとんどないと判断し、誤嚥性肺炎の治療をメインに行います。誤嚥性肺炎の治療は

  • 抗生物質の投与
  • 更なる嘔吐の抑制
  • 点滴などによる全身状態の改善
  • 気管支拡張薬の投与
  • 重篤な場合には酸素室での入院

などが挙げられます。こちびちゃんは呼吸が荒い物の、呼吸困難などの症状はなかったため、通常の入院室での半日入院による治療を選択しました。

1週間で完治

こちびちゃんは3日間の半日入院とその後数日間の内服薬の投薬で完治しました。

CRPも正常値(<0.3mg/dl)になり、レントゲンでも右肺の不透過性(白さ)は消えています。

右が2日目のレントゲン。左はその5日後のレントゲン。右肺(画像では左側)の不透過性(白さ)が改善し、肺野がきれいになっている

今回は、

  • 嘔吐の原因が腸閉塞ではなかったこと
  • 誤嚥後早い段階で来院し、早めに治療を開始できたこと

から重症化せずに完治することができました。約1週間の治療で、咳もおう吐も収まり、元気や食欲もいつも通りに戻ってくれました。

誤嚥性肺炎とは

誤嚥性肺炎は、食べ物や飲み物などが食道ではなく気管の方に入っていってしまうために起こる肺炎です。

本来、肺につながる気管や気管支には空気が入ってきますが、そこの食べ物や飲み物が入ることで、炎症や感染が引き起こされる結果、誤嚥性肺炎が起こります。

発症しやすい年齢

誤嚥性肺炎はどの年代にも発生しますが、最も多いのは子犬や子猫と高齢動物です。

子犬や子猫、高齢動物は成犬に比べると免疫力が高くはありません。また、食べ物を飲み込むための機能(嚥下能力)が落ちてきて、うまく食べ物をうまく呑み込めず、誤嚥してしまう機会も多くなります。その結果、誤嚥性肺炎が多く発生します。

また、人口哺乳中の子猫も誤嚥性肺炎に非常に注意が必要です。ミルクを吸引する力が弱かったり、飲ませ方がうまくないと、ミルクが気管の方に入ってしまうことがあります。子猫は免疫力が非常に弱いため、ミルクの誤飲による誤嚥性肺炎が多くなります。

誤嚥性肺炎の原因

犬や猫の誤嚥性肺炎の原因は以下の通りです。

  • 嘔吐物の吸引
  • ミルクや強制給餌時の誤飲
  • 喉頭麻痺

この中で、嘔吐物の吸引は、犬や猫の誤嚥性肺炎の原因で最も多いです。高齢の動物では喉頭麻痺と呼ばれる喉の筋肉の機能低下によって誤嚥性肺炎を起こすこともあります。

誤嚥性肺炎の症状

誤嚥性肺炎の症状は通常の肺炎とほとんど変わりませんが、その経過が早いことが多いです。

激しい嘔吐などのきっかけがあった直後から、症状が急激に進行することが多いです。誤嚥性肺炎の症状は

  • 突然の激しい咳や呼吸困難
  • 呼吸数の増加
  • 発熱
  • 食欲元気の低下
  • チアノーゼ(舌の色が紫っぽくなる症状)

などです。

誤嚥性肺炎の治療

誤嚥性肺炎は基本的には通常の肺炎と同じように、抗生物質の投与を中心とした治療を行います。症状が重度の場合には、酸素室に入院をし、点滴や薬などの集中治療を行います。

また、嘔吐に伴う誤嚥性肺炎の場合には、再度嘔吐物を吸引してしまう可能性が高くなります。そのため、制吐剤など嘔吐の対策も重要になってきます。

早期治療と再発予防が大切

今回のこちびちゃんは、嘔吐があって半日以内という早期の治療が功を奏し、重症化せずに完治しました。誤嚥性肺炎は他の肺炎に比べて経過が早く、重症化してから病院に連れてこられることも多いです。そうなると、治療が遅れ、場合によってはかなり危険な状態になってしまうこともあります。

また、嘔吐が続けば誤嚥性肺炎が再発したり、喉の筋肉が弱いわんちゃんでも繰り返すことがあります。そのため、再発の予防も大切になる肺炎です。

誤嚥性肺炎が疑われる場合には、すぐにでも動物病院で診てもらうとともに、再発予防のための処置も必要です。呼吸器系の異常は命に直結しますので、誤嚥性肺炎が疑われる場合にはできるだけ早く動物病院で診てもらうようにしてくださいね。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です