中高齢犬の咳~心不全からの肺水腫

以前にもいくつか紹介してきましたが、高齢犬によくある心臓病の典型的なわんちゃんが来院しましたので、ご紹介いたします。

お家のわんちゃん、最近咳をしていませんか?そんな時はこの記事をぜひご覧くださいね。特に小型犬の8歳以上のわんちゃんを飼っている方は要チェックですよ。

1か月前から咳が出るトイプードル

今回ご紹介するわんちゃんは、9歳のトイプードルのもみじちゃん(仮名)。もみじちゃんは大きな病気はしたことがないけれど、ここ1カ月くらい咳が出るという主訴で来院しました。元気食欲がしっかりあったため、少し様子を見ていたものの、咳が治まってこなかったため、当院を受診されました。

聴診をしてみると・・・

お話を聞いた後に、身体検査の一環として聴診をしてみました。

もみじちゃんはとっても緊張が強く、心拍が異常に速くて聞き取りづらいのですが、通常の心音の中に心雑音と呼ばれる雑音を聞き取ることができました。

心雑音は、心臓の部屋を分ける弁に異常が出てくる弁膜症(べんまくしょう)で非常によく出てくる所見です。この時点で、心臓が原因で咳が出ている可能性が高いのではないかと考えました。

その他の身体検査には大きな異常はありません。

レントゲン検査

DV(伏せ)像です。 心臓のサイズが大きく、特に左心の拡張(矢印先)が顕著で、心臓が左胸壁にくっついているように見えます。右肺にはレントゲン不透過性の亢進(赤丸)があり、肺水腫が疑われます。

咳の原因が心臓にあるのか、肺や気管支にも問題があるのか、それを調べるためにはレントゲン検査が必要です。飼い主様の同意が得られたのでレントゲン検査をしてみました。その結果が以下の写真です。

ラテラル(横向き)像です。 心臓のサイズが大きくなっており(VHS=13)、左心房の突出(矢印の先)が確認されます。また、心基底部尾側にレントゲン不透過性(白さ)亢進像も確認され肺水腫が疑われます。

レントゲン検査所見では、

  • 心臓の重度の拡大
  • 肺水腫を疑わせる肺野の不透過性亢進が確認されます。

正常なレントゲン写真と比較すると、心臓の拡張が非常に重度であることが分かります。

左がもみじちゃん、右は心臓が健康な犬のレントゲン写真(DV=伏せ) 正常な心臓との比較をすると、もみじちゃんの心臓が異常に大きくなり、丸くなっているのがわかると思います。(右のレントゲンの白いものはマイクロチップです)

超音波検査は断念

本来であれば、超音波検査でさらに心臓の状態を把握するところですが、緊張によるパンティング(はぁはぁ呼吸すること)が強く、肺の状態も良くないため、無理な超音波検査は断念しました。

心臓の拡張が重度であったため、突然死の可能性が高い心タンポナーゼ(心臓の周りに血液が溜まり、心臓を圧迫してしまう状態)も疑われましたが、短時間の心エコー検査により心タンポナーゼは否定できました。

心臓の薬を1週間処方

検査の結果、もみじちゃんの咳の原因は、「心不全(僧帽弁閉鎖不全症)からの心拡大及び肺水腫」と診断しました。

そこで、もみじちゃんには

  • 強心薬(ピモベンダン)
  • 心臓の保護・降圧の薬(ACE阻害薬)
  • 利尿剤(フロセミド)

の3種類の薬を処方し、1週間後に再診としました。

1週間後の再診:咳は改善傾向

1週間後、もみじちゃんの再診日が来ました。

薬は何とか飲ませている

まずはお話を聞いて身体検査を行います。

「薬はうまく飲ませられていますか?」と聞いてみると、「嫌がるので米にくっつけて飲ませている」とのお答えが来ました。パンにはさんだり、チーズに埋め込んだりというのはよく聞きますが、「米にくっつける」というのは初めて聞きました(笑)。そうするともみじちゃんはうまく薬を飲んでくれるとのことです。

問題の咳の方は、まだ出はするが、だいぶましになってきたとのことです。

レントゲン検査

1週間の変化を確認するため、レントゲン検査を行いました。前回との比較がこちらの写真です。

左が初診時、右が再診時(1週間後)のレントゲン写真。 心臓のサイズはほとんど変わりませんが、右肺野(赤丸)の不透過性(白さ)がかなり改善しています。

初診時に比べ、肺野の不透過性が改善し、肺水腫が良化しているのがわかります。まだ軽度の肺水腫はありますが、薬で落ち着いてくれる可能性は高いと判断しました。

薬を減らして次回は1か月後の再診

利尿剤を使っているため、念のために血液検査をしましたが、腎臓への負担は特にはなさそうでした。

本来であればそのまま薬を続けたいのですが、薬を飲ませるのがなかなか大変だということで、ACE阻害薬を無くして、残り2種類をしっかり飲んでいただくことにしました。ACE阻害薬は心臓を保護する働きをしてくれますが、飲まなくても維持できるわんちゃんもいるため、薬を飲ませるのが難しい場合には飲ませないことも少なくありません。

検査結果から、心臓や肺の状態の改善が確認され、薬の副作用もなさそうであったため今回は1か月分のお薬をお渡しして、診察終了です。

まとめ

僧帽弁閉鎖不全症(MR)は、高齢の小型犬に非常に多く発生する心臓病です。その症状は、運動不耐性(動くとすぐ疲れてしまう)や咳などとして出て来ることが多く、命に係わる非常に危険な病気です。

僧帽弁閉鎖不全症は手術をしないと完治しない病気ですが、お薬を飲むことで元気に長生きできることも少なくない病気です。一方で、重症化すると、肺水腫による呼吸困難など非常に苦しい状態になってしまうことも多く、重度の肺水腫は死亡例が非常に高い病態です。

特に愛犬が高齢で、咳や疲れやすさなどが気になる場合には早めに動物病院で診てもらうようにしましょう。

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