臍ヘルニアの緊急手術~でべその異常に気付いたらすぐに診察を

犬と猫の先天的な異常に多い「臍ヘルニア(さいへるにあ)」。いわゆる「でべそ」のことで、お腹の真ん中あたりにポコッと出ているものがあれば臍ヘルニアの可能性が高いです。

臍ヘルニアは大きなものでなければ放置することも多いのですが、時に突然危険な状態になることもあります。今回は、臍ヘルニアに腸が嵌頓(かんとん)し、緊急手術したわんちゃんのご紹介です。

シーズー 4歳 カノンちゃん(仮名)

今回ご紹介するのは、4歳のシーズー、カノンちゃんです。カノンちゃんはもともと臍ヘルニアがありましたが、2か月前に6頭の子犬を無事出産しました。妊娠中には腹圧が上がるため、臍ヘルニアが悪化することも多いですが、カノンちゃんは悪化せずに、無事自然出産することができました。

他の手術後に緊急電話が・・・

病院の電話が鳴ったのが午後1時過ぎ、予定として入っていた猫ちゃんの避妊手術が終わってほっと一息つこうとしている時でした。電話の内容は、「カノンちゃんが1度嘔吐をし、ヘルニアが硬くなっている」とのことでした。

恐れていたことが起きた?

カノンちゃんの家族の皆さんは、シーズーちゃんを何頭も飼っているベテラン飼い主さんです。普段からよく触っていただいていることと、ヘルニアの悪化の症状(硬くなる、触ると痛がる、変色するなど)をお話ししていたため、異変に早く気付いていただけました。朝は異常がなかったとのことで、数時間以内にヘルニアの状態が変化した可能性があります。

怖いのは腸がヘルニア内に入ってしまい、そこで嵌頓(かんとん)を起こすことです。その場合、すぐにでも処置をしないと腸が壊死をして重度の腹膜炎から命を落としてしまうことも十分考えられます。そのため、すぐに連れてきてもらうよう指示しました。

やはり腸がヘルニア内に・・・

急遽、緊急手術の準備をしながら待っていると、電話から約30分後にカノンちゃんが病院に到着しました。ぐったりしているわけではありませんが、よだれを出ていてお腹が痛そうです。

実際にお腹を触ってみると今までのようにプニプニのでべそではなく、硬くごつごつした内容物が触れます。触診ではやはり腸がヘルニア内に入り込んでしまった可能性が高そうです。念のため、でべその部分に超音波を当ててみると以下のような画像が得られました。

臍ヘルニアの超音波画像。ヘルニア内に楕円形の腸が見られます。腸の右に見える低エコー源性(黒い)の部分はヘルニアの中に漿液(炎症に伴う液体)が溜まっている可能性を示唆しています。

ヘルニア内の腸の拡大像。画像にはうつっていませんが、カノンちゃんの腸管は正常な運動が止まってしまっているものの、血流があることが確認できました。

超音波検査では

  • 腸が入り込んでいること
  • まだ血流があり、血流障害の影響は少なそう

ということが分かりました。今すぐ手術で整復することができれば、腸を温存して治癒させることができそうです。

もともと、飼い主さんとは、近々避妊手術と一緒に臍ヘルニアの整復手術をしましょうとお話をしていたところでもあり、そのまま緊急手術をすることになりました。飼い主さんの希望もあり、麻酔が安定していれば、避妊手術も同時に行う予定にしました。

手術前:術前検査と静脈点滴

他の手術直後であり、器具の滅菌まで少し時間がかかります。その間にカノンちゃんの状態を把握し、安定化させる準備をしました。

術前検査

全身状態を把握するために、術前の血液検査を実施しました。血液検査では、炎症の数値を含めて異常は認められません。やはり、腸の状態はまだ悪くなっていなさそうです。

静脈点滴

嘔吐による脱水や痛みによる低血圧などが心配されたたため、術前に静脈点滴や鎮痛剤の投与をして状態を安定させます。静脈点滴中、状態は落ち着いているものの、痛み止めを使っても痛みによるよだれが止まりませんでした。静脈点滴は術中・術後にも継続して行います。

臍ヘルニア整復および卵巣子宮摘出術

手術器具の滅菌が完了してすぐ手術を行いました。手術時間の予定は30~45分。腸の状態によっては1時間以上かかる可能性もありますし、麻酔の導入や術部の毛刈り・消毒などの時間も考えて、麻酔の覚醒午後の診察に間に合うよう14時30分から麻酔を開始しました。

麻酔

当院では、動物の種類(犬か猫か)、全身状態(心臓や腎臓などの状態)、手術による痛みの程度などによって、使う麻酔や鎮痛剤の種類を変えています。

幸い、カノンちゃんは臍ヘルニアの嵌頓に気付いてすぐであったこと、もともと健康であり大きな持病もなかったことから、健康なわんちゃんに使うのと同じような麻酔プロトコールを用いて手術をしました。

麻酔の方法としては、まずは点滴をしていた静脈ルートから、注射の麻酔薬を3種類静脈注射をします。その薬が効いて意識が無くなった段階で、気管チューブを挿管し、ガス麻酔と人工呼吸をかけていきました。

心電図や血圧、酸素飽和度、二酸化炭素濃度などのモニターをし、問題ないことを確認してから手術に入ります。

手術前に臍ヘルニアが戻った!

麻酔が効いて、痛みがほとんどなくなった状態で再度ヘルニアを触診しながら腹腔内に戻せるか試してみました。無麻酔の状態では、筋肉に力が入っているうえに痛みもあるため整復は困難でしたが、痛みがない状態で再トライです。

ゆっくり触診しながらお腹に戻せるかやってみたところ・・・なんとヘルニアに入っていた腸がストンと腹腔内に戻りました。麻酔薬の働きの一つ「筋弛緩作用」で腹筋の筋肉が緩んだおかげで腸がお腹の中に戻ってくれたようです。

ヘルニアの中に腸が入っている場合には、お腹に切開を入れるときに腸を傷つけてしまう危険性がありますが、お腹の中に戻った状態であれば、そういった危険性はほとんどなく、手術の安全性も高まります。また、筋弛緩によって腸がお腹に戻るということは、腸がそれほど強く締め付けられていなかった可能性も高く、腸を温存できる可能性が高くなるのです。

実際の手術

麻酔も安定していたため、まずは開腹してヘルニアの状態や腸の状態を確認します。

皮膚を切開し、皮下組織を分離した状態の臍ヘルニア(黒丸部分)。ヘルニア内には腸管が入っていたが、術前に押し戻すことができたため、内臓脂肪のみが認められます。黒矢印は皮下組織で、皮下組織にも円形上の穴が開いていました。他の部位に比べ、ヘルニア付近は癒着をはく離したため出血がやや多くなっています。

さらに開腹して腸を腹腔外に牽引して見てみると、変色や充血などのダメージの可能性のある変化を起こした部位はありませんでした。

そこで、腸を腹腔内に戻し、麻酔が安定しているのを確認して避妊手術をおこないました。避妊手術は、健康なわんちゃんに行うのと同様に卵巣子宮摘出術です。卵巣と子宮に入る血管や靭帯、膜などをレーザーでシーリングし、切断していき、卵巣と子宮を取り出します。特に大きな問題なく、卵巣子宮摘出術は終了しました。

その後、臍ヘルニアの整復術に移行します。臍ヘルニアの穴が開いていた腹筋近くには、脂肪が癒着しており、この脂肪を処理しないと腹筋の癒合不全から臍ヘルニアの再発につながってしまうため、癒着をはがしながら脂肪を取り除きます。大きな血管はありませんが、細い血管からじわじわ出血をするので、レーザーで焼きながら剥離をしていきます。

脂肪の剥離ができたら、避妊手術で切開した腹筋と同時に腹壁を縫合し、皮下組織、皮膚を縫合して手術終了です。手術時間は約35分、麻酔をかけ始めてから約60分でカノンちゃんが目を覚まし、手術完了です。手術が無事終了したことと、午後の診察に間に合いほっとしました。

臍ヘルニアの概要

臍ヘルニアは、犬に非常に多い先天的な異常です。猫でも時々見かけますが、犬に比べると少ない印象です。

原因は遺伝?

臍ヘルニアは、遺伝することが知られています。実際、カノンちゃんの子犬ちゃん6頭すべてに、小さな臍ヘルニアが見つかっています。ただし、親に臍ヘルニアがないからと言ってその子犬に臍ヘルニアが出ないというわけではないようで、すべてが遺伝するのかは不明です。

へその緒の切り方が影響すると勘違いされていることもあるようですが、そういったことではありません。

臍ヘルニアの症状

臍ヘルニアは先天的な異常ですので、子犬の時から出べそが見つかります。小さいとわかりづらいこともありますし、還納性(かんのうせい)ヘルニアと言って、お腹の中に入ったり出たりするヘルニアもあります。

臍ヘルニアの大きさは、成長とともに小さくなる場合も大きくなる場合もあります。ヘルニアの中には腹腔内脂肪が入り込んでいることが一般的であり、その場合にはプニプニした脂肪のような触り心地の腫瘤として触ることができます。

時にヘルニア内に腸や子宮などが入り込むことがあり、その場合には少し硬めのいびつな内容物を触ることができることもあります。

危険な臍ヘルニアとは

臍ヘルニアは基本的にそれほど怖い病気ではありません。ただし、以下のような状態になっている場合には、カノンちゃんのように緊急手術が必要になるケースが多いです。

  • 急に硬くなった
  • 触ると痛がる
  • 周りの皮膚と色が違う(赤・紫・どす黒いなど)

また、以下のような臍ヘルニアは将来的な危険性があります。緊急性はありませんが、将来的なリスクを減らすために、早めの整復手術がすすめられます。

  • ヘルニアの大きさが直径1~2㎝以上ある
  • 将来的に妊娠させる予定がある

臍ヘルニア まとめ

カノンちゃんは術後の経過も良く、手術の翌日に退院しました。その後も元気にしており、手術から1週間後に無事抜糸をし、治療終了することができました。

カノンちゃんの場合には、飼い主さんがしっかり様子を見て異常に早く気付き、すぐに来院して手術できたことで、腸の壊死や腹膜炎など大きな合併症なく治療することができました。

臍ヘルニアは、腸が入り込んで緊急手術が必要になるケースもあります。当院では、臍ヘルニアがあるわんちゃん・猫ちゃんでは避妊去勢手術をした時に一緒に手術をすることをおすすめしています。避妊・去勢手術をしない場合にも、大きなヘルニアや将来的に妊娠・出産させたい場合には、予防的に臍ヘルニア整復術をしておく方がいいです。

愛犬・愛猫に出べそがある場合には、一度ご相談くださいね。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です