KCS(乾性角結膜炎)

開業して1週間がたちました。

1週間のうちに2件同じ病気の子が来院されたので、今回はその病気をご紹介いたします。

乾性角結膜炎(KCS)の概要

乾性角結膜炎はいわゆるドライアイのことで、日本語名が長いため、英語名「keratoconjunctivitis sicca」の略を取って、KCSと呼ばれることが多い病気です。

涙の量が少なくなることで眼が乾燥して、ドロッとした目やにが増えてくる病気です。同時に眼の感染や色素沈着などが起き、さまざまな眼のトラブルを併発しやすい病気です。

KCSの原因とは?

KCSは涙の量が減ることで起こる病気で、先天性、神経性、自己免疫性、涙腺の炎症、特発性などが原因として挙げられます。犬のKCSの大部分が特発性だと言われていますが、免疫抑制剤の投与でよくなるケースが多く、炎症や自己免疫も原因として多いのではないかと考えられます。

KCSは犬に多い病気で、シーズーやパグなどの短頭種、テリア系のわんちゃんでよく遭遇する病気です。一方猫でKCSを発症するのは極めてまれだと考えられています。実際、私も猫のKCSに出会ったことはありません。

涙の役割とは

KCSにより涙の量が減るとさまざまな問題が起こります。それは涙に以下のような役割があるからです。

1.ゴミや病原体を洗い流す

顔の前にある眼には、ゴミや病原体などが常に入ってきます。涙は目の表面を常に多い、それらの異物が入ってきた場合に洗い流す作用をします。目に刺激があると涙が増えるのも、そういった防御反応の一つです。

2.角膜に栄養分を運ぶ

目の一番表面の膜を角膜(かくまく)と呼びますが、角膜は光を通す働きをしなければならないため、血管が走っていません。そのため、角膜には血管からの栄養が行きません。その栄養を与えるのが涙なのです。涙には電解質、ミネラル、糖分、たんぱく質などさまざまな栄養成分が入っており、角膜に栄養分を与えています。

3.酸素や水分を与える

涙は栄養分だけでなく、酸素や水分を角膜に与えてくれます。

KCSの主な症状

KCSの最初の症状は目の渇きですが、犬の場合は自覚症状を訴えることができないため、飼い主さんが見てわかるような症状が出てきて初めてKCSに気付くことができます。

● 目やにの増加

涙の量が少なくなると、ドロッとした目やにが増えてきます。ゴミなどによる目の刺激、感染、炎症などが目やにが増える原因となります。中年以降の犬で、粘着性の高い目やにが多くなる場合には、KCSに要注意です。

● 白目の充血

白目の充血もKCSの症状の一つです。涙の減少により結膜炎が起きやすく、目やにとともに充血が増えて来ることでKCSに気付くことも多いです。

● 目の表面の着色

特にシーズーなどの短頭種では、KCSに伴う目の刺激の増加によって、目の表面に黒い色素が付いてしまうことが多いです。本来透明なはずの角膜が黒くなると目が見えなくなってしまいます。

アイビーペットクリニックの症例

では、当院に来院したわんちゃんをご紹介いたします。

1.太郎ちゃん(仮名)

10歳 ケアンテリア

KCSでずっと点眼を続けているという主訴で来院されました。皮膚のアレルギーもあるようで、数種類の内服薬と点眼薬の投薬を続けているとのことです。

身体検査では、粘性眼脂(目ヤニ)と結膜の強い充血が認められました。KCSの治療中であり、身体検査でも涙の量が少ないことが疑われたので、シルマーティアーテストで涙の量を測ります。シルマーティアーテストは1分間瞼の裏に試験紙を入れて涙の量を測る検査であり、正常な犬では1分間で15㎜以上の涙が出ます。

太郎ちゃんの場合は右目が5㎜、左目が12㎜と右目の涙がかなり少なくなっていました。左目はグレーゾーンですがやや涙は少なめになっています。

太郎ちゃんは抗生剤の点眼薬とジクアスと呼ばれるドライアイの点眼薬を使っていましたが、あまり効果が認められないようだったので、点眼薬の変更を指示しました。今回は、ロメワンという動物用の抗生剤点眼薬と、KCSに強い効果を持つオプティミューン眼軟膏を処方しました。

1週間後の再診

本日太郎ちゃんの再診がありました。目やにや充血はやや改善しているようで、目の潤いも少しましになっているようです。今回も、目薬の効果を確認するためにシルマーティアーテストをします。その結果がこちら。

 

うまく、オプティミューンが効いているようで、涙の量は左右ともに増加しました。オプティミューンは少し高い目薬なので、1日2回を1日1回にして極力目薬の使用量を減らして様子を見てもらうことになりました。

2.まろんちゃん(仮名)

推定15歳のシーズーちゃんです。主訴は目やにががびがびになってしまって取れないとのこと。実際に見てみると確かに目やにががっつりついており、眼球が見えません。

 

KCSと緑内障などの併発で状況悪化

 

お話を聞くと、まろんちゃんはもともとドライアイ気味ではあったものの、白内障から緑内障を併発し、目の状態がどんどん悪化。痛みからか目を触らせてくれなくなり、どんどん目やにがこびりついてしまったということです。

診察をして目の周りを触ろうとするとやはり異常に嫌がります。ただし、目やにで眼球が見えないとどのような状態でどういった治療をしないといけないのかわかりません。かかりつけの先生にはこれ以上お手上げだと言われてしまい、当院で何とかならないかと受診したという経緯もあります。

鎮静による処置

15歳という高齢ですので麻酔などはしたくないため、まずは「ブトルファノール」という弱い鎮静薬を投与し、処置や検査ができないかを探ってみました。ブトルファノールを筋肉注射し、約10分。ちょっとボーっとしてきたため処置開始。しかし、痛みのトラウマなのか目を触ろうとするとかなり暴れます。高齢の子の場合、無理に押さえつけてしまうとかえって危険なこともあるため、この状態での処置は断念。飼い主さんとの相談の上、短時間の麻酔をかけて処置を行うことにしました。

静脈に留置針を入れて、短時間麻酔薬「プロポフォール」を少量ずつ静脈投与します。ある程度入った段階で力が抜けてきたため、処置を開始しました。プロポフォールは深い麻酔とは違い、短時間で冷める比較的安全性の高い麻酔薬です。ただし、呼吸が止まってしまうことがあるので、呼吸状態に注意し、万が一呼吸が止まってしまっても対応できるように、気管挿管(きかんそうかん)の準備をしながら処置を行いました。

幸い、まろんちゃんは最低限処置ができるくらいの深度で麻酔が保てたため、そのまま処置を行いました。目やにを水でふやかし、少しずつ取ります。瞼の毛にも絡みついていたため、できるだけ慎重に毛を切りながらかさぶたを取りました。

目やにの塊はしっかり取れて眼球が見えるようになったもののやはり眼球の状態は良くはありません。片目は緑内障の影響からか大きく張れ上がり、両目ともKCSと思われる眼球の渇きと色素沈着、粘性の強い眼脂が出ています(目を洗浄した後なのでシルマーティアーテストはできませんでした)。

本来であれば点眼薬などでコントロールしていくのですが、いかんせん目の周りを触られるのを極端に嫌がります。まずは目の周りの荒れを改善させて内科的にコントロールできるかどうかを判断しようということになりました。もしそれが難しいようであれば、外科手術による眼球摘出も考えなければいけないかもしれません。

1週間後の再診

まろんちゃんの1週間後に再診に来てくれました。また今回も目やにがかなりついてしまっているため、鎮静をかけつつ、目の周りをきれいにさせていただきました。

目の周りの状態はずいぶん改善しましたがまだ瞼の荒れが強く、いい状態とは言えません。眼摘出を行うにも瞼の状態が良くないため、もう少し飲み薬で瞼の状態を良くする必要があります。今回は、並行して眼科に強い先生を紹介させていただき、他に方法がないのかを見てもらうようにしました。

まとめ

動物の眼の病気はたくさんあります。また、その治療を決めるためには、病気の種類だけでなくその進行度や動物の性格、費用面などさまざまな要素を考えていく必要があります。何か気になることがある場合には、お気軽にご相談くださいね。できるだけ柔軟に治療法を提案させていただきたいと思っております。

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