ワクチンは1年に1回必要か?抗体価検査とともに考える~猫編
犬と猫のワクチンは基本的に1年に1回必要になります。しかし、少しずつその考え方は変わり始めています。前回は犬のワクチンへの考察を書かせていただきましたので、今回は猫のワクチンに関しても書かせていただこうと思います。
ワクチンを毎年打つ理由・メリット
① 毎年ワクチンを打たないと免疫力を維持できない猫がいる
ワクチンへの反応は猫によって違います。1度打つと3年効果が続く猫もいれば、1年で弱くなってしまう猫もいます。そのため、毎年ワクチンを打つ方が、確実な予防効果を得ることができます。
② 3年に1度だと忘れてしまう飼い主さんがいる
1年に1度のワクチンは、毎年この時期にワクチンを打てばいいと覚えていることが多いです。一方で、3年に1度となると、なかなか覚えていることは難しく、知らない間にだいぶ過ぎていたということになりかねません。3年以上たってしまうと効果はかなり落ちてしまいますので、3年に1度を選択する場合には、確実に自壊接種日を覚えておくようにしないといけません。
③ 抗体価検査のための費用が高い
猫の抗体価検査の費用はワクチンの費用よりも高くなります。そのため、費用のことだけを考えると、ワクチンを打っておいた方が検査をするよりも安く済むということになります。
④ ワクチンよりも抗体価検査の方がストレスがかかる
ワクチンは背中に打つだけなので基本的に抑える必要もありませんし、多少動いてしまっても打つことはできます。一方で、抗体価検査を行うためには、ある程度の量の血液を採血する必要があります。猫が動かないように抑えたり、する必要があり猫の性格によってはストレスがかかることもあります。
⑤ 抗体価検査は100%信頼できるものではない
抗体価検査では、体の中の抗体(特定の病原体に対する抵抗力)の量を調べることができます。血液中にどれくらいの量があれば、感染を防げるだろうというデータの目安にはなりますが、100%感染しないと言い切れる検査ではありません。
⑥ ペットホテルやトリミングで義務付けられていることも
ペットホテルやトリミングで預ける場合、1年以内にワクチンを打っていることが必須条件とされていることも多いです。そういった場合には、ワクチンを打っていないと受け入れてもらえないため、毎年打つ必要があります。
抗体価検査を行う理由・メリット
① 不要なワクチンを打たなくて済む
抗体価検査をすれば、ワクチンが必要か不必要かがわかります。不必要な注射を避けられるというのが、抗体価検査の最大で唯一のメリットです。これは、特に今までワクチンで副作用の出てしまった猫や、高齢でワクチンを打つのが心配な猫には非常に大きなメリットになります。
② 腎臓病のリスクが減る?
ワクチンと腎臓病の発生の関係については、こちらの論文が有名です。Risk Factors for Development of Chronic Kidney Disease in Cats
この研究では、高齢の猫に毎年ワクチンを打つことで腎臓病の発症リスクが2倍以上高くなるというデータが出ています。
猫のワクチン、どうする?
以上のように、ワクチンを毎年接種するのと、3年に1度接種するのにはそれぞれメリットデメリットがあります。そのため、猫の状態によってどちらにするのかを相談させてもらうのがいいのではないかと考えます。
猫のワクチン接種を考えるうえで大切なのが高リスクの猫(外に行く、多頭飼い)なのか低リスク(単独飼育で完全室内)という点です。
毎年接種がおすすめな猫
毎年接種をおすすめするのは次のような猫です。
- 高リスクの猫で採血のストレスが大きい
- 高リスクの若くて健康な猫で、費用をあまりかけたくない(多頭飼いで検査をするとかなり高くなってしまう)
抗体価検査がおすすめな猫
一方で、以下のような猫には、抗体価検査をしたうえでワクチン接種の是非を考えてもらうことをおすすめします。
- 高リスクの猫で、採血のストレスが少ない
- 高リスクの若くて健康な猫で、費用をかけることができる
3年に1度の接種がおすすめな猫
また、3年に1度の接種は以下のような猫におすすめいたします。
- 低リスクの成猫
3年に1回の場合には、ワクチンの代わりに1年に1回の健診をおすすめいたします。
当院の抗体価検査の実際
当院では抗体価検査を随時受け付けております。
抗体価検査の流れ
- 抗体価検査の希望を伝えていただく(受付時もしくは診察時)
- 抗体価検査のメリット・デメリットをお伝えする
- そのうえで希望される場合には、約1mlの採血(健康チェックも同時に希望される場合には1.5ml必要)
- 検査センターに血液(血清)を送る
- 1~2週間で結果が病院に届く
- お電話でのご連絡もしくは結果を郵送
- 結果によって、早めのワクチン接種・1年以内の再検査・数年後のワクチン接種などの相談
抗体価検査の費用
- コアワクチン3種セット(ヘルペス・パルボ・カリシウイルス):6,000円(採血料込み・別途診察料1,000円がかかります)
抗体価検査の注意点
- 結果はすぐには出ません。抗体価検査の結果、抗体が低い場合には後日ワクチン接種が必要になります。
- ワクチンの抗体価検査のためには、以前打ったワクチンの種類を教えていただく必要があります。当院でワクチンを打ったことがない場合、ワクチンの証明書をお持ちいただくか、ワクチンを打った動物病院に必ず確認しておいてください。
- 年末年始やお盆など検査機関がお休みに入ってしまう場合、検査ができないこともあります。長期休みの前や長期休み中に検査を希望される場合には、事前にご確認お願いいたします。
まとめ
抗体価検査にはメリットもデメリットもあります。今後もう少しデータが集まってくることで、ワクチンは3年に1回でもよくなる可能性も高いのではないかと思います。ただし、すべての子に3年に1回でよいわけでもなく、現在のところは、3年に1回でもいい子がいるという程度に考えていただいていた方がいいでしょう。
猫のワクチン接種を考えるうえで大切なのが、猫が高リスクなのか低リスクなのか、猫の年齢や採血のストレスなどです。完全室内飼いでも病気や手術で動物病院を受診した際にウイルスに感染してしまったり(こちらの記事も参考にしてみてください)、脱走して感染してしまうリスクもあります。ワクチンは毎年打たなくてもいいというわけではないので、愛猫に合った接種方法を一緒に考えていけるといいですね。
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