健康診断の大切さ~2歳で腎臓病を発症したたろう君の例から
当院では現在健康診断キャンペーンを実施しています。「うちの子は若いから・・・」という飼い主さんもおられますが、健診はシニアの動物だけでなく、若いわんちゃん猫ちゃんにも大切です。
今回は、若くても健康診断が必要な理由について、実際に診察した猫ちゃんの例をもとにお話いたします。
たろうくん 雑種猫 2歳6か月
今回ご紹介するのは、3歳の雑種猫、たろうくん(仮名)です。
鼻炎の症状で初診
たろう君が初めて当院を受診したのは6月のこと。鼻水と目やにが出るとの主訴で来院しました。
たろう君の体重は2.16㎏、男の子にしては非常に小柄な猫ちゃんです。特に痩せて体重が少ないという感じではなく、体格自体がやや小さいという印象を受けました。
元気や食欲は問題はないということと、飼い主さんの希望もあったため、初診時には鼻炎の対症療法を行い、経過を見ることにあしました。調子が悪ければ早めに来ていただくようにお話ししましたが、その後しばらくは調子が良かったために来院されていませんでした。
3か月後に調子を崩して来院
次にたろうくんが来院したのは初診時から3か月後の9月のことです。元気も食欲もなく、明らかに調子が悪いというのが来院の理由です。
身体検査所見
お話を聞いた後は、実際に診察をスタートします。たろう君は明らかに元気がなく、調子はかなり悪そうです。身体検査では以下のような情報が得られました。
- 体重の減少
体重測定で1.5㎏。初診時2.16㎏から3割程度も少なくなってしまっています。 - 重度の脱水
皮膚のテントテストで、約10%の脱水を認めました - 低体温
体温が36℃とかなり低下していました(犬の平熱は37-38℃です)
血液検査をしてみると
血液検査をしてみると大きな異常が見つかりました。
- BUN(血中尿素窒素)=113(基準値 8~30)→腎機能低下
- Cre(クレアチニン)=4.9(基準値 0.4~1.8)→腎機能低下
- K(カリウム)=2.1(基準値 3.5~5.0)→栄養不良・腎臓からの喪失
- TP(総蛋白)=10.6(基準値 5.5~7.5)→脱水
以上より腎臓病による脱水からの体調不良と考えました。
入院治療で体調回復
腎臓病の治療はいろいろな方法がありますが、太郎ちゃんのように脱水が強く食欲がない場合には点滴が必要になります。
点滴には、外来治療で行うことができる皮下点滴(ひかてんてき)と、入院して行う静脈点滴(じょうみゃくてんてき)があります。たろうちゃんは連日通院するのが難しいということで、入院をして治療することとなりました。
たろう君は、治療によく反応してくれ、3日間の入院によって調子が上がり、退院して通院に切り替えることができました。
たろう君の現在
たろう君は現在のところ、週に1回の点滴と食餌療法、それから毎日1回の内服薬(セミントラ=タンパク尿の改善薬)による治療で元気に生活しています。毎週日曜日に点滴に通院していますが、診察室をうろうろ探検するほど慣れています。
体重も現在は2.5㎏を超え、調子が悪くなる前の体重以上に増えて元気にしてくれています。
若いうちの健診の重要性
さて、たろうくんと健診の関係、どういったものでしょうか?
若くても病気になることがある
猫には腎臓病が非常に多いのですが、腎臓病を発症するのは7歳以上の高齢猫が圧倒的に多いです。
ただし、2歳のたろう君のように若いうちから腎臓病などの病気を発症することもあります。たろう君の腎臓病は、慢性腎臓病である可能性が高く、症状が出るかなり前から腎臓が弱ってきていたと考えられます。
病気が進行する前に発見できる
たろう君はかなり調子を崩した状態で来院しましたが、幸い元気に生活できるまで回復することができました。
ただし、症状が出てしまった時にはもう進行していて手遅れになってしまうということもあります。症状が出る前に病気を診断することができれば、早めに治療をスタートでき、入院治療など負担やストレスのかかる治療が必要なかったり、回復できる可能性が高くなります。
犬や猫は「体がだるい」と伝えられない
病気の症状には、元気や食欲の低下、嘔吐や下痢など他の人から見てもわかる「他覚症状(たかくしょうじょう)」と、「気持ちが悪い」「体がだるい」など本人にしかわからない「自覚症状(じかくしょうじょう)」があります。犬や猫に何かしらの症状が出ていると飼い主さんが気付くのは他覚症状が出てからです。
たろうちゃんの場合にも、調子を崩して来院するまでは他覚症状はなかったようですが、治療を開始してからの体重の増加(初診時2.16㎏→現在2.5㎏)や元気さを見ると、初診時の前からなんとなく「気分が悪い」「体がだるい」などがあり、たろうちゃん本人にとっては本調子からは遠かったのではないかと考えます。
愛犬・愛猫の口に出せない言葉を拾う健康診断
たろうくんのように若いうちから病気が発症してしまうわんちゃん・猫ちゃんは珍しくありません。当院は開業してまだ間もないですが、その9カ月の間に健康診断で以下のような病気が見つかっています(ワクチンやフィラリア検査時の身体検査や血液検査などを含む)。
- 皮膚の腫瘍(甲状腺がん、乳腺腫瘍、脂肪腫、形質細胞腫、精巣腫瘍など)
- 慢性腎臓病
- 低たんぱく血症(IBD)
- 口内炎・歯周病
- 臍ヘルニア・会陰ヘルニア
- 陰睾(腹腔内陰睾・皮下陰睾)
- 耳ダニ
- ノミの寄生
- KCS(乾性角結膜炎=ドライアイ)
- 心雑音(僧帽弁閉鎖不全症・三尖弁閉鎖不全症)
- 膀胱結石
- 膝蓋骨脱臼など
細かい病気を含めると、まだまだたくさんあります。
これらの病気は
- 様子を見ながら経過観察しても良い病気
- 手術などで完治できる病気
- 薬やサプリメント、食餌で悪化を防げる病気
- 薬でQOL(生活の質)を向上できる病気
などさまざまです。普段からスキンシップなどのコミュニケーションを密に取り、体調管理をしっかりしていても検査をしてみないとわからない病気もあります。言葉をしゃべることのできない動物だからこそ、口にできない言葉を拾うための健康診断は重要です。
秋~冬は、フィラリアやノミダニ予防、狂犬病予防接種など定期的に動物病院に来る機会が少なくなる時期です。そんな時でも病気の早期発見ができるよう、1月末まで健診キャンペーンを実施しています。普段よりお得に待ち時間少なくできる冬の健診キャンペーン、ぜひお考え下さいね。