子宮蓄膿症の手術~未避妊のメス犬ちゃんは要注意の病気です

陰部から血膿が出て来た・・・こういった主訴を聞くと我々獣医師の頭を一番によぎる病気が「子宮蓄膿症」です。子宮蓄膿症は、避妊をしていない6歳以上の中~高齢の犬で最も注意が必要な病気の一つであり、治療をしないと数日以内に死亡してしまうこともある怖い病気です。

先日当院で手術をした子宮蓄膿症のわんちゃんについてお話いたします。

日曜午後にトイプードルが体調不良で来院

今回ご紹介するわんちゃんは、日曜午後に「愛犬の体調が悪いので見て欲しい」とお電話をいただいた、12歳のメス(未避妊)、トイプードルのモモちゃん(仮名)です。

昨日から食欲が落ち、陰部からはオリモノが

モモちゃんはおとといまで特に元気にしていたけれど、昨日から食欲が落ち、本日は好きなものもまったく食べないということで当院に初めて連れてこられました。そして、今日からは陰部からオリモノが大量に出ているということでした。

このお話を聞いた時点で、子宮蓄膿症が頭に浮かびますが、先入観を持たないようにもう少しお話を聞きました。特に大きな持病はないものの、体中の毛が抜けて薄くなってしまっているということも飼い主さんは気にしているようです。

身体検査をしてみる

お話を聞いた後は、いきなり個々の検査に入らず必ず身体検査を行います。これは、病気の見落としを防止するために非常に重要です。

大量の膿が出て、モモちゃんの陰部は膿で汚れています。

身体検査では、肥満(ボディコンディションスコア5/5)と全身の脱毛、陰部からの排膿を認めました。また、乳腺に小さなしこりを数カ所見つけました。高齢ではあるものの、モモちゃんの心臓の音は悪くなく、他に大きな異常は認めませんでした。

検査を進めていく

以上のことから、まずは子宮蓄膿症を疑い検査を進めていきます。

超音波検査

子宮を見るためにはレントゲンと超音波検査のどちらも使うことができますが、子宮の状態を詳細に把握するためには超音波検査が有効です。お腹に超音波を当てると、以下のような像が確認できました。

超音波では液体が黒く映って見えてきます。膀胱の中の尿以外に、正常ではお腹の中に液体が溜まる場所はありません。しっかり見ていくと、液体は管状の物の中に黒い液体が溜まっており、場所や見え方から子宮の液体貯留と判断しました。

超音波画像では液体の性状はわからないため、子宮に水が溜まる子宮水腫の疑いもありますが、陰部から膿が出ているのも考えれば、子宮蓄膿症でほぼ間違いはないと考えられます。

血液検査

子宮蓄膿症と診断した後、全身の状態の把握のため、血液検査も行いました。

血液検査では、炎症の数値であるCRPが正常値の10倍程度に上がっており、血液の濃さも正常の半分程度しかないことが分かりました。子宮の炎症に伴うCRPの上昇と、子宮の中の出血による貧血が疑われます。子宮蓄膿症が全身に影響すると、腎臓の数値が上がったり、血糖値が下がったりしますが、幸いその他の血液検査の数値には大きな異常は認められませんでした。

治療法の提示:外科療法(手術)か内科療法か

子宮蓄膿症の治療は基本的には手術で行いますが、内科療法(点滴や内服薬など)で抑えることができるケースもあります。今回はそれぞれのメリット・デメリットをお話しして飼い主さんと相談をさせていただきました。

手術のメリット

  • 完治させられる
  • 回復が早い
  • 再発がない

手術のデメリット

  • 全身麻酔のリスクがある:子宮の膿・肥満・貧血・高齢などによるリスクとホルモン疾患の可能性があり、術中に亡くなる可能性は健康な犬の麻酔に比べると高い

内科療法のメリット

  • 薬が効いて手術を避けられる可能性

内科療法のデメリット

  • 治療に反応せずさらに状態が悪化する可能性
  • 生理(発情出血)のたびに再発を繰り返す可能性が高い
  • 卵巣や子宮のがんなどが子宮蓄膿症の原因となっている可能性があり、手術が遅れることで手遅れになることも

子宮蓄膿症は手術で完治させることが最もいい治療法ですが、手術にはリスクもあります。今回のモモちゃんは、肥満・貧血・高齢・ホルモン疾患の可能性があり、麻酔や手術のリスク、術後の感染症などのリスクがあります。以上のことをお話しし、飼い主さんとの相談の結果、手術を受けていただくことになりました。

子宮蓄膿症の手術

子宮蓄膿症の手術のタイミングは、病院によってさまざまです。すぐに手術をする方がいいという意見もありますが、当院では子宮破裂や重度の敗血症などよほど状態が悪くない限り、ある程度点滴を流してその日の夜や次の日に手術を行うようしています。その理由は

  • 点滴を行うことにより脱水を改善させ、術中の低血圧のリスクを減らせる
  • 抗生物質を手術前からしっかり投与して、術中に全身に菌が回るのを防ぐ

などです。私はすぐに手術をするメリットより点滴をしっかりしてから手術を行うメリットが大きいと考えております。モモちゃんの場合も、一晩点滴をし、翌日手術をすることにしました。

入院2日目

モモちゃんは一晩点滴を流して抗生物質をしっかり使ったことで、昨日よりは少し元気が出てきているようでした。午前中の間に飼い主さんに面会に来ていただき、手術前の様子も見てもらいました。

月曜のお昼には、以前から予約いただいていた手術がすでに2件入っており、万全の態勢を整えて手術をするためには、午後の診察が終わってからしか時間が取れなかったため、夜の手術となりました。

麻酔

麻酔は低血圧のリスクの少ない、注射麻酔とガス麻酔をコンビネーションで使いました。また、点滴は手術直前から血圧を維持できるよう、強心薬入りの点滴に変えて点滴を行いました。

注射の麻酔を静脈注射後、気管内チューブを挿管し、酸素とガス麻酔を流しながら手術を行いました。こうした処置が功を奏したのか、幸い麻酔中の状態は非常に安定し、安全な麻酔を実施することができました。

手術

手術の方法は、通常の犬の避妊手術と変わりません。お腹の皮膚と筋肉を切開し、卵巣と子宮に入り込む血管を結紮(シーリング)し、取り出すという術式です。ただし、子宮蓄膿症では

  • 子宮が大きく腫れており、破裂させないよう丁寧な操作が必要
  • 子宮や卵巣の血管が発達し、出血のリスクが高い
  • 通常の避妊手術より大きな切開が必要

などと言った違いがあります。こちらが手術中の写真です。クリックするとモザイク無しの写真を見ることができます。

開腹して子宮を体外に出しているところ。傷口よりも大きな子宮が見えます。(モザイク無しの拡大画像はクリック)

左右の子宮と子宮頸部を体外に出したところ。子宮は全体的に大きく腫れあがっています。中には膿が溜まっているので、子宮が破れないよう慎重に操作していきます。(モザイク無しの拡大画像はクリック)

また、モモちゃんは肥満であるため、麻酔のリスクが高いだけではなく

  • 腹腔内脂肪によって血管が非常に見にく、結紮が困難
  • 皮下脂肪・腹腔内脂肪からじわじわと出血する

といった手術の難易度を高める要因がありました(こういったことは人でも同じですので、将来手術が必要になる可能性も考え、私もダイエットしておかなければと動物の手術のたびに思います・・・)。

通常、小型犬の避妊手術では執刀時間は30分程度、皮膚の縫合は3~5針ですが、今回のモモちゃんは執刀時間1時間、皮膚の縫合に8針必要になりました。取り出した子宮がこちらです。

取り出した子宮。子宮に穴を開けてみると、画像のような血膿がドロッと出てきました。術前に陰部から出てきていたオリモノと同じです。(モザイク無しの拡大画像は画像をクリック)

卵巣の拡大像。卵巣にも異常に発達した卵胞(指先の複数のポコポコした組織)が確認できます。卵胞嚢腫により、ホルモンの異常分泌を起こし、子宮の感染を助長したものと推測されます。

 

麻酔は安定していたものの、手術時間がかかったこと、皮下の出血が多くさらに貧血が進む可能性も考え、乳腺のしこりの摘出手術はやめて手術を終了しました。麻酔の覚めは非常によく、ガス麻酔を切って5分後には気管チューブを抜管し、入院室に移動することができました。

手術の翌日にはご飯も食べ始め、入院4日目(手術の翌々日)には元気に退院できました。

摘出した子宮には膿が大量に溜まるとともに、卵巣には多数の卵胞が発達した卵胞嚢腫と思われる病変が確認されました。卵胞嚢腫によりホルモンが過剰分泌された結果、子宮の異常を引き起こした可能性が高いと思われます。

まとめ

避妊手術をしていないメスのわんちゃんには子宮蓄膿症は非常に多い病気です。

幸い、モモちゃんは

  • 膿が外に出てくる開放型子宮蓄膿症であったこと(膿が子宮から出てこない閉鎖型ではより重篤になることが多いです)
  • 他の臓器に影響する前に飼い主様が手術を決断できたこと

などの要因により、手術は無事に成功し、術後の経過も良く退院できました。

子宮蓄膿症は数日のうちに亡くなってしまうこともある非常に怖い病気です。愛犬が避妊手術をしていない場合には、子宮蓄膿症の前兆である

  • 多飲多尿(子宮に溜まった細菌が腎毒性物質を出すため尿が増え、飲水量も増えます)
  • 陰部からのオリモノ(膿や血など)
  • 陰部を気にして舐める
  • 生理後1~2か月以内の体調不良

などにしっかり注意をして早期発見早期治療ができるようにしておきましょう。また、子宮蓄膿症の予防のためには避妊手術がもっとも確実な方法です。若い子であればもちろん、ある程度お歳が行っていても健康状態が良い犬の場合には、早めに避妊手術をして卵巣や子宮の病気を予防できるようにしてくださいね!

当院で行う避妊手術に関しては、こちらのページも参考にしてください。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です