猫の胸水~猫の呼吸の異常は要注意

ペットの体調不良のサインにはいくつかありますが、特に注意が必要なのが呼吸器系の異常です。

呼吸器系の異常の症状には

  • 呼吸数の増加
  • 開口呼吸
  • チアノーゼ

などがありますが、これらの症状は直接命に係わる非常に怖い症状です。今回は、胸水が原因で呼吸が悪くなってしまった猫ちゃんを例に、猫の呼吸困難についてお話いたします。

3歳・♂・MIX猫

今回ご紹介する猫ちゃんは、3歳のオスのミックス猫、一郎ちゃん(仮名)です。

原因不明の体調不良に関するセカンドオピニオンで受診

一郎ちゃんは1か月くらい前から、食欲や元気が低下して、他院を受診していました。

抗生物質やステロイド剤などの注射を打つと調子が改善していたものの、しばらくすると徐々に調子が悪くなるということを繰り返していたようでうs。当院受診前日にもかかりつけを受診していましたが、注射を打っても調子が上がらないため、当院を受診しました。

呼吸が速い

お話をお伺いし、一郎ちゃんを診察すると、呼吸が速いことに気付きました。犬や猫は動物病院に来ると緊張から呼吸が速くなることもありますが、飼い主さんにお話を伺うと、ここ数日はおうちでも呼吸がいつもより速くかんじていたということでした。

猫ちゃんの呼吸数はリラックスしているときは1分間に30回以下であることが正常ですので、1分間に30回を超える場合には何らかの原因による呼吸困難を疑います。

また一郎ちゃんの胸の音を聴診器で聞いてみると、呼吸するときに聴こえる「肺音」が荒く、通常の肺音とは違う音が聞こえました。

そこで全身状態を把握するために、レントゲンと血液検査を実施しました。

レントゲン検査所見

以下が一郎ちゃんのレントゲン検査所見です。

一郎ちゃんのラテラル(側面)像。通常であればラグビーボール型の心臓が見えるはずだが、前胸部(写真左)を中心にレントゲン不透過性が亢進(白くなること)しているため、心臓の輪郭がはっきりしていない。写真中央の黒い部分は肺の空気で、心臓後方の肺はある程度空気を含めている。

一郎ちゃんの胸部DV(伏せ)像。写真上部が頭側。本来であれば、胸部中央に白い心臓の印影が見えるはずだが、胸部全体のX線不透過性(白さ)が亢進してしまっているので、心臓の輪郭がわからない。

 

レントゲン検査では、本来空気が入って黒く映るべき場所が白くなってしまっているため、心臓の輪郭がはっきりしていません。このレントゲン画像は胸水の時によく見られます。

血液検査では大きな異常はなく、猫エイズ(FIV)と猫白血病(FeLV)の検査は陰性でした。

胸水抜去+検査

胸水が溜まる原因はいくつかありますが、胸水が溜まっている場合にはその胸水を抜いて検査を行います。また、胸水が溜まっていると肺がしっかり膨らむことができないせいで呼吸が苦しくなるので、胸水を抜くことは現在の状態を改善してあげる治療にもつながります。

胸水抜去のためには、肺や心臓がある胸の中に針を刺す必要があるため、少し危険が伴いますが、一郎ちゃんは大人しくしてくれていたため、安全に胸水を抜くことができました。抜いた胸水はこのように真白の液体で、「乳び胸」と呼ばれるものが疑われました。

抜いた胸水を顕微鏡で見てみると、以下のようにいくつかの細胞が見つかりました。

胸水の沈査の塗抹染色。小さな赤血球に混じり、リンパ球や好中球、マクロファージなどの炎症細胞が多数出現している。専門の検査機関に送ったところ、腫瘍を疑わせる細胞はなく、炎症に伴う胸水が疑われるという結果。

腫瘍細胞である可能性もあるため、検査センターに送ってみたところ、「慢性胸膜炎に伴う胸水」という診断が返ってきました。

1週間後の再診

抗生物質とステロイド剤を飲んでもらって1週間後に再診に来ていただきました。当院の初診後は非常に調子が良く、呼吸も落ち着いているということでした。

胸水の状態を確認するためにレントゲンを撮ってみた結果が以下の写真です。

再診時のラテラル像。前回白くなっていた前胸部(心臓の右側)の肺が膨らみ、心臓の印影がはっきり見えている。

DV像。初診時にはわからなかった心臓の印影(中央のラグビーボール型をした白い部分)がはっきり見えている。肺全体に空気が充満し、胸の中の黒い部分が増えている。

初診時に比べて胸水が大幅に減り、レントゲン画像上は胸水がほぼ消失しているように見えています。抗生物質とステロイドの投薬治療に反応して、胸水が消失したものと思われます。

食餌療法で経過観察

慢性胸膜炎が起きる原因はさまざまですが、いくつかの追加検査の結果、腫瘍やFIP(猫伝染性腹膜炎)などの原因が否定的となり、血液検査や胸水の検査結果から一郎ちゃんは「特発性乳び胸」という診断で継続治療を行っています。

乳び胸は、胸の中にある「胸管(きょうかん)」と呼ばれるリンパ液が通る管から、何らかの原因でリンパ液が胸の中に漏れてしまう病気です。原因不明な乳び胸を、特発性乳び胸と呼びます。

特発性乳び胸の治療は低脂肪食による食餌療法がメインとなるため、一郎ちゃんにも低脂肪食をおすすめして食べてもらっています。ただし、胸の中の腫瘍が完全に否定できたわけではないため、再発に注意しながら経過を観察する必要があります。

猫の胸水について

では、猫の胸水について簡単にお話いたします。

胸水の症状

胸水は、肺の外側の胸腔(きょうくう)という場所に液体が溜まる病気です。胸腔は本来は肺が膨らむスペースであり、そこに胸水が溜まってしまうと肺が膨らめなくなり、呼吸が苦しくなります。そのため、猫の胸水の一般的な症状は呼吸困難であり、以下のような症状が起こります。

  • 努力呼吸(お腹を大きく動かして呼吸する)
  • 開口呼吸(口を開けて呼吸する)
  • 呼吸促拍(呼吸が速い)
  • チアノーゼ(舌の色が紫っぽくなる)

呼吸器系の症状が出ているときは、体が酸欠状態になっている可能性があり、早めに動物病院を受診する必要があります。特に、開口呼吸やチアノーゼはかなり呼吸が苦しい状態のときに起こり、緊急性が高い危険な状態です。

胸水の原因

猫の胸水の原因は、以下のように様々です。

  • 心不全
  • リンパ腫・胸腺腫などの腫瘍(いわゆるがん)
  • 低たんぱく血症
  • FIP(猫伝染性腹膜炎)
  • 膿胸
  • 特発性乳び胸

胸水の治療

以上のように胸水の原因はさまざまであり、その原因によって治療法は違います。ただし、呼吸がかなり苦しい場合には、胸水の原因に関わらずまずは胸水を抜いてあげることで肺が膨らめるようになり、呼吸を楽にしてあげることができます。

胸水の治療の多くは、薬による内科的治療になります。ただし、治療中も胸水が溜まることも多く、定期的に胸水を抜く必要が出て来ることも多いです。暴れてしまう猫の場合には、安全のために軽い鎮静をして胸水を抜くこともあります。

まとめ

胸水は犬や猫の病気のうち、緊急性の高い状態の一つであり、呼吸が苦しい犬や猫では胸水を疑ってレントゲン検査やエコー検査が必要になります。緊急性が高いだけでなく、息を吸っても吸っても肺が膨らまないというかなり苦しい状態でもあるため、できるだけ早く状態を改善してあげる必要もあります。

胸水はその原因位によって治療法や予後が大きく変わる病気であり、病気によっては薬やフードで長生きできることも少なくありません。愛犬・愛猫の呼吸が変だなと感じたら、できるだけ早く病院を受診してくださいね!

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