睾丸が2つ無い⁉腹腔内陰睾のがん化リスクと手術について

開院1年があっという間に過ぎ、外来の件数とともに手術の件数が増えてきています。子犬ちゃん・子猫ちゃんのご来院が多いため、現在当院で行う手術の8割くらいは避妊・去勢手術となっており、多い日には1日2-3件手術の予定が入ることも珍しくなくなってきました。

今回は、去勢手術の中でも少し特殊な「腹腔内陰睾(潜在精巣)」の手術を行いましたので、ご報告いたします。去勢手術をしていないオスのわんちゃん・猫ちゃんを飼っていらっしゃる方は、愛犬・愛猫の睾丸がしっかりあるか確認してみて下さいね!

犬も猫も産まれたときには金玉がない?

犬や猫では、生まれたての時には、睾丸(いわゆる金玉)はお腹の中に隠れており、陰嚢(いわゆる玉袋)の中にはないのが普通です。

生後2か月くらいで起こる精巣下降

犬や猫では、生後2か月前後で睾丸が腹腔内から陰嚢に降りて来る「精巣下降」が起こります。小型犬や猫では2カ月齢では睾丸が非常に小さいため生後3-4か月くらいにならないと陰嚢内に精巣があるかどうかがわからないことも多いです。

生後半年を過ぎても陰嚢内に睾丸が下りていない場合には、その後精巣下降が起こる可能性は極めて低くなります。睾丸が陰嚢内に降りてこない状態を陰睾(潜在精巣)と呼びます。

腹腔内陰睾と皮下陰睾

陰睾には、腹腔内陰睾と皮下陰睾の2種類があります。

腹腔内陰睾は、睾丸が完全に腹腔内に入ったままで触診で確認できない状態をさします。一方、皮下陰睾は、睾丸が皮膚の下までは出て来たものの、陰嚢内まで到達できなかった状態をさします。

どちらの場合も、陰睾となった睾丸は機能せず、精子をつくることができないと言われています。

がんが増える??陰睾のリスクとは

では、陰睾は何が問題なのでしょうか?そのリスクについても知っておきましょう。

腫瘍の発生リスクは10倍以上

陰睾で最も問題となるのが、がんの問題です。

セミノーマと呼ばれる睾丸の腫瘍は、正常な位置にある睾丸に比べ、陰睾の睾丸では約13倍に発生リスクが増えるという報告があります。実際に当院でも皮下陰睾ががん化してしまったわんちゃんの手術を行いましたので、こちらの記事も参考にしてみて下さい。

皮下陰睾の場合には、がん化した睾丸は触るとすぐにわかるので早期発見は可能ですが、腹腔内陰睾の場合にはがん化しても症状が出るまでわからないため、発見時にはすでに転移や貧血などを起こし、手遅れになってしまうこともあります。

子供にも遺伝する

陰睾は、遺伝性疾患とされ、その子犬にも遺伝する可能性が高くなります。

両側の睾丸が陰睾である場合には子供を作る能力はありませんが、片側陰睾の場合には正常な睾丸から生死を作ることはできるため、メス犬を妊娠させることは可能です。

陰睾のオス犬から生まれた雄犬では陰睾になることが多く、その子は睾丸の腫瘍のリスクが高くなってしまうため、陰睾のオス犬を繁殖に使うことはすすめられていません。

腹腔内陰睾の手術

腹腔内陰睾をがん化させないためには、若いうちに手術で摘出してしまうのが最もよい方法です。先日、腹腔内陰睾の摘出術を行ったトイプードルの子がいましたので、腹腔内陰睾の手術についてお話しします。

腹腔内陰睾の摘出には開腹術が必要

通常、男の子の去勢手術ではペニスの基部を1~2㎝切開することで睾丸を切除することができるため、開腹手術は必要ありません。皮下陰睾の場合も、切開箇所が二カ所必要になることもありますが、開腹手術は必要ありません。

一方、腹腔内陰睾では、お腹の中に存在する睾丸を摘出するため、開腹術が必要になります。そのため、手術や麻酔の時間は通常の去勢手術より長く、負担も少し大きめの手術になります。

また、オス犬ではお腹の真ん中(正中)にペニスがあるため、真ん中より少し横を切らないと開腹することができません(オス猫はペニスが短いためメス猫と同じように正中を切ることができます)。実際のところ、女の子の避妊手術よりも、オス犬の去勢手術は手技が難しく、手術時間も長くなります。

お腹の中に萎縮した睾丸を発見

今回手術をしたトイプードルちゃんは、左の睾丸は通常通り陰嚢内に存在しますが、右側の睾丸がどこを触っても見つかりません。

手術はいつも通り、全身麻酔、術中モニターの装着および確認、毛刈り、消毒を行ってスタートします。まずは性状に降りてきている左の睾丸の摘出術を行いました。その後は問題の腹腔内の睾丸摘出です。

まずはペニスの横の皮膚を3㎝ほど切開し、皮膚の下をはく離しながら、大きな血管を避けて腹筋の成虫部分にある白線(左右の腹筋の中央にある筋膜)を見つけます。白線を切開し、腹腔内へ到達し、前後に白線を切開して開腹しました。

そして、お腹に子宮釣り出し鈎(犬・猫の避妊手術で子宮と卵巣をお腹の外側に牽引するために使う器具)を入れて、睾丸があると思われる部位を探ってみると、うまく精管と睾丸を腹腔外に釣り出してくることができました。以下が腹腔外に牽引した睾丸です。

腹腔外に牽引した睾丸と精管

睾丸につながっている精管や血管、膜などをレーザーによってシーリングし、睾丸を切除しました。

そのまま腹筋、皮下、皮膚と縫合し、約30分で手術は終了しました。

腹腔内陰睾はすでに萎縮

以下の写真は摘出した正常な睾丸と、腹腔内陰睾になっていた睾丸です。

摘出した左右の睾丸。 左は正常な睾丸、右側が腹腔内にあり萎縮した睾丸。

写真を見てわかる通り、お腹の中に入っていた腹腔内陰睾は正常な睾丸に比べてずいぶん萎縮しています。精巣は体温よりやや低めでないと活動できないため、腹腔内陰睾の睾丸は活動を停止して萎縮してしまうのです。

皮下陰睾・腹腔内陰睾は早めに手術を

去勢手術は前立腺肥大や会陰ヘルニアなどの病気の予防、正確の温和化など行動面でのメリットが大きい手術です。その中でも皮下陰睾・腹腔内陰睾の手術は、睾丸腫瘍のリスクの大きな睾丸を取り出すことができるメリットの大きな手術です。手術をしておくことで、知らず知らずのうちにお腹の中でがんが大きくなってしまうという怖い状態から愛犬を守ることができます。

生後6か月を過ぎても「愛犬に睾丸が2個ない!」という方はお早めにご相談くださいね!

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