ゴムマットによる腸閉塞~異物の誤飲に要注意

先日、腸閉塞の猫ちゃんの緊急手術がありました。

若いわんちゃん猫ちゃんで特に気を付けて欲しいのが異物の誤食です。異物を誤食した場合には、催吐や内視鏡による回収ができればいいですが、そうでないと最悪腸閉塞になってしまいます。

今回、知らないうちにゴムマットを食べていて、腸閉塞を起こしてしまった猫ちゃんの治療を行いましたのでご報告いたします。変なものを食べてしまう癖のあるわんちゃん猫ちゃんの飼い主さんはぜひ読んでみて下さいね!

嘔吐が止まらない猫ちゃんのセカンドオピニオン

今回ご紹介するのは、3歳のメス猫、くろちゃん(仮名)です。

1週間前から嘔吐と食欲不振

くろちゃんは1週間前から嘔吐と食欲不振があり、別の動物病院に2度ほど受診していたそうです。調子が上がらずぐったりしているとのことで当院を受診されました。もともとゴムマットを食べてしまう癖があり、飼い主さんもそれが心配だというお話でした。

他院では、暴れるため血液検査もエコー検査も何もできないと言われ、点滴や吐き気止めなどの注射をしてもらっていましたが、徐々に調子が悪くなってきているとのことです。

脱水が強く、元気のない沈鬱状態

クロちゃんを診察してみると、強い脱水があり、明らかに元気がない沈鬱状態でした。午前の早めの時間に来院していただいていましたが、その日は予約の患者さんなどで混雑していたため、点滴をしながら検査を進めるために、お昼までお預かりをさせてもらいました。

静脈点滴をしつつお預かり

原因が何にしろ、くろちゃんは脱水が非常に強く、静脈からの点滴が必要です。前足の血管から留置針を入れて採血をするとともに、点滴を開始しました。血液検査では脱水、白血球の増加、電解質の異常などいくつかの異常が見つかり、それに合わせた点滴液を選択して静脈点滴をスタートしました。

くろちゃんの検査

身体検査(触診)では明らかな異物は確認されなかったため、くろちゃんの検査としてまずは全身を見るための単純レントゲン検査、それから異物の確認のための超音波検査を行いました。

単純レントゲン検査

単純レントゲン検査では、全身状態を把握する目的と、レントゲンにうつる異物や胃腸のガスの状態をチェックし、腸閉塞の所見がないかどうかを探る目的で行いました。

くろちゃんのVD(仰向け)像単純レントゲン写真。レントゲンにうつる異物や明らかな異常所見はありません。

くろちゃんのラテラル(横向き)像単純レントゲン写真。レントゲンにうつる異物などの明らかな異常所見はありません。

単純レントゲン検査では、レントゲンにうつる異物や明らかな異常所見は見つかりませんでした。

腹部超音波検査(腹部エコー検査)

腹部の超音波検査は、胃腸の状態をより細かく調べることができる検査です。ただし、全体像を見ることができないため、特に消化管内異物を疑う場合には、超音波検査だけではなくレントゲン検査も組み合わせることで見落としの可能性を減らし、より正確な診断につながります。

くろちゃんの腹部超音波検査を行うと、以下のような画像所見が得られました。

小腸と思われる場所に、長さ1.3㎝の高エコー源性の(白く見える)物体が確認され、その物体はシャドーイング(超音波が通らずその下が黒く見えること)を伴っています。こうした像が見られるときは消化管内異物を強く疑います。

中央上部の黒い部分は、上の写真の近くの小腸です。液体(超音波では黒く見えます)が溜まった拡張した腸管が確認されます。腸の完全閉塞があった場合に、閉塞部位の近位(口に近い部分)でよく見られる所見です。

レントゲン造影検査(バリウム検査)

超音波検査の結果、消化管内異物が強く疑われる所見が得られましたが、まだ確証が得られないことからバリウム造影検査を行うことにしました。まれに、バリウムを飲ませることで異物が移動し、腸閉塞が解除されることもあるため、それも少し期待したというのもバリウム検査に進んだ理由です。

バリウム検査をしてみると、以下のような画像が撮影されました。

くろちゃんのバリウム造影レントゲンのVD(仰向け)像です。白く映っているのがバリウム、右上の方の白い塊が胃の中のバリウム、そこから左・下・右・上と細く映っているのが小腸です。バリウム投与60分後も120分後も、バリウムが同じ場所(点線赤丸)で止まっているのがわかります。この画像より、小腸の完全閉塞を疑いました。

そして、バリウムを飲んで3時間後、強めの制吐剤を使っていたにもかかわらず、ほぼ全量のバリウムを嘔吐してしまいました。

超音波検査とレントゲン造影検査で腸の閉塞(完全閉塞)が疑われたこと、すでに症状の出初めから1週間以上経過していることから、飼い主さんと相談の上緊急手術を行うことになりました。

消化管内異物摘出のための腸切開手術

小腸内異物があり、閉塞して動かない場合には外科的に取り出す必要があります。手術は午後の外来が終了してから行うことにし、それまでの間、状態を上げるために点滴や抗生物質の投与を行いました。

全身麻酔

消化管内異物の摘出術は開腹手術になるため、全身麻酔が必要になります。

くろちゃんの麻酔はいつもと同じく、注射による麻酔の導入、気管挿管、ガス麻酔という手順で行いました。心電図や酸素飽和度などのモニターが問題ないことを確認し、術野の毛刈りと消毒を行い、手術をスタートしました。

消化管内異物の摘出術

開腹して腸をチェックしてみると・・・やはり異物がありました。直径1㎝くらいの硬い異物が小腸内に見つかりました。

小腸内の異物(黄色の丸の中の黒い部分) クリックするとモザイク無しの画像が見られます

腸の状態をチェック

異物を見つけても、まずは腸全体の状態をチェックすることが大切です。腸の状態が悪い場合は、腸切開だけでなく腸の部分切除と吻合術が必要になります。また、消化管内異物は1個とは限らないため、念のため腸全体をチェックして、腸の状態およびほかの異物の有無を確認します。

腸に詰まった異物と腸の状態。左の黄色丸の部分は異物が通って炎症があるため、腸が赤くなっています。右の青丸の部分は異物の遠位(異物がまだ通っていない部分)で薄ピンク色の正常な腸の色をしています。

幸い、腸の状態は良く、胃腸をすべて確認して見ても、他に異物は見つかりませんでした。

腸切開術

異物のある小腸を切開し、異物を取り出します。

腸を切開(黄色矢印)し、異物(黄色丸)を取り出したところ。モザイク無しの画像はクリック

術後の癒合不全(傷のくっつきが悪く内容物が漏れてしまうこと)を防ぐために、できるだけ健康そうな部分の腸を切開し、異物を取り出しました。

取り出した異物。予想通り、2㎝弱のゴムマットが腸閉塞の原因でした。

腸の縫合と腹腔内洗浄

異物を取り出したら、できるだけ腸内容物が腹腔内に漏れないように縫合します。

腸の縫合が終了したところ。生理食塩水を注入し、漏れがないことも確認しました。画像をクリックするとモザイク無しの画像を確認できます。

縫合して、内容物の漏れがないことを確認したら、お腹の中を滅菌生理食塩水で洗浄します。

腸の切開部に大網(お腹の中にある膜の一部)を縫い付けているところ。腸管の癒着や内容物の漏出のリスクを減らします。クリックするとモザイク無しの画像を見られます)

通常、避妊手術や去勢手術は無菌的に行うことができますが、消化管の手術は腸内容物による腹腔内汚染(術後の腹膜炎につながる)をしてしまうため、できるだけ洗浄し、術後の腹膜炎を防ぐ努力をします。

腹筋を縫合し閉腹

洗浄し、止血の確認ができたら腹筋の縫合を行い、閉腹します。腸管や腹壁などお腹の中に使った糸はすべて吸収糸であり、数か月で吸収されてなくなります。

閉腹出来たら麻酔を切って覚醒させました。麻酔も安定し、腸の状態も良かったため、手術はスムーズに終了し、麻酔開始から終了まで約1時間程度で終わりました。

3泊4日で無事退院

くろちゃんは、手術後には嘔吐もなく、元気もどんどん回復してくれました。

手術後24時間で飲水を開始し、嘔吐や発熱がないことを確認しながら流動食を与えました。もともとくろちゃんはドライフードしか食べない猫ちゃんで、流動食はあまり食べてくれなかったため、流動食をシリンジで口に入れて食べてもらいました。

その後、缶詰フードは自分で食べるようになり、嘔吐や発熱なく、元気もしっかりあったため3泊4日で退院となりました。胃切開や腸切開などの胃腸の手術をすると、通常3~7日程度の入院が必要となります。

術後1週間程度で来院してもらい、調子も良く、傷口もきれいにくっついていたため抜糸して手術終了となりました。

異物の誤飲は予防と早期治療が重要

異物の誤飲によるトラブルは、開業して1年ちょっとの当院でもすでに20件以上来院しています。

大半は、わんちゃん猫ちゃんが異物を飲みこんでしまったことに飼い主さんが気付いたため、すぐに来院して催吐処置を行い、事なきを得たというものになりますが、腸閉塞によって手術が必要になってしまった例はこれで2例目になります。経過観察で異物が便に排泄されたケースも数例ありました。

異物の誤飲はまずは予防が最も大切です。くろちゃんもよくゴムマットをかじってしまうことに飼い主さんは気付かれていたということであり、誤飲の予防(ゴムマットの除去など)ができていれば異物の誤飲が防げた可能性はあります。

また、異物を食べた現場を見た場合には、催吐処置によって嘔吐させて腸閉塞を防ぐという方法もあります。腸閉塞を起こしてしまった可能性がある場合には、早めに診断し手術をすることで今回のくろちゃんのように、元気に回復できることは多いです。

一方で、腸閉塞を起こしてから時間がたってしまうと、腸の壊死や腹膜炎、さらには脱水や低血圧などからかなり危険な状態になってしまいます。そのため、異物の誤飲は早期発見早期治療も大切です。

異物を飲み込んでしまったり、その可能性がある場合には、できるだけ早く積極的に検査を受けるようにしてくださいね!

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