猫の皮下潜在精巣の手術
先日猫の皮下潜在精巣(皮下陰睾)の手術をしましたので、ご紹介いたします。
潜在精巣とは?
潜在精巣は、本来陰嚢の中に入っているはずの精巣が、お腹の中や皮膚の下にとどまってしまう異常をさします。
生後2カ月齢で起こる精巣下降
犬や猫の精巣(睾丸)は産まれたときにはお腹の中に入っています。生後約2か月齢くらいに、精巣下降と呼ばれる現象が起き、陰嚢(いわゆる玉袋)に精巣が下降してきます。
おそくとも3-4カ月齢になるころには、陰嚢内に左右1対の精巣を触ることができますが、その時期になっても陰嚢内に精巣が降りてきていない状態を潜在精巣(陰睾)と呼びます。
皮下陰睾と腹腔内陰睾
潜在精巣には、皮下陰睾(皮下潜在精巣)と腹腔内陰睾(腹腔内潜在精巣)の2種類が存在します。
皮下陰睾とは、皮膚の下に精巣が存在する状態をさします。皮下陰睾では、足の付け根やペニスの横を触ると精巣を確認することができます。ただし、潜在精巣は萎縮をしていることが多いため、飼い主さんが触ってもわからないケースも多いです。
一方、腹腔内陰睾は腹腔内に精巣が残ってしまう異常です。腹腔内陰睾は腹部エコーで確認することができる場合もありますが、なかなかエコーでわからなこともあり、実際に開腹手術で探し出すまで睾丸があるのかないのか(無精巣)、判断がつかないこともあります。無精巣は、片側もしくは両側の睾丸がない先天的な異常ですが、かなり珍しいため、陰嚢内にも皮下にも睾丸が触れない場合には腹腔内陰睾であることがほとんどです。
潜在精巣は怖い病気?
潜在精巣は、それほど怖い病気ではありません。ただし、放置しておくと、通常の睾丸の数倍の確率でがんになってしまうと言われていますので、若いうちに摘出しておくことがすすめられています。
また、片側陰睾(片側の精巣は陰嚢内に正常にある状態)であれば、繁殖させることは可能ですが、潜在精巣は遺伝することが分かっているため、繁殖に使うことは勧められていません。
皮下潜在精巣の手術
では、実際の手術をご紹介します。
症例:7か月・雑種の黒猫・くろちゃん(仮名)
今回手術をしたのは、7カ月齢の雑種猫・くろちゃん(仮名)です。保護猫ちゃんで、以前にコクシジウムとマンソン裂頭条虫という消化管内寄生虫が2種類いた猫ちゃんですが、投薬治療で完治して、手術を迎えました。
診察当初から潜在精巣であることを確認していましたが、脂肪の奥の方に隠れており、頑張って触って何とかわかる程度でしかなかったため、実際には手術で確認するまでは皮下陰睾か腹腔内陰睾かはっきりわかりませんでした。
脂肪の奥に皮下陰睾を発見
潜在精巣の手術は、通常の去勢手術と同じように全身麻酔をかけ、毛を刈って消毒します。一度手術に入ってしまうと、毛刈りや消毒ができなくなってしまうため、開腹手術になってもいいように広めに毛を刈り消毒を行いました。皮下に睾丸が見つからない場合、開腹手術を行う必要があります。
手術をスタートし、触診で睾丸らしきものが触れる場所の皮膚を切開しました。しかし、脂肪が多く、睾丸は出てきません。脂肪をかき分けてぐっと押し込んでみると、皮膚切開部から睾丸を出すことができました。

血管や精管を処理し、皮下・皮膚を縫合
睾丸が出てしまえば、あとは通常の去勢手術とやることはほとんど変わりません。精巣の膜(総漿膜)を切開し、血管と精管を半導体レーザーでシーリング切断し、精巣を摘出したら皮下と皮膚を縫合しました。正常な陰嚢内の精巣も同様に摘出し、手術終了です。
すでに萎縮が始まっている皮下陰睾
摘出した精巣が以下の写真です。

正常な精巣に比べ、皮下陰睾は明らかに委縮しています。陰嚢内に落ちてこなかった精巣は、精子をつくることができず徐々に萎縮してきますので、もう少し年を取っていたらさらに見つけるのが難しくなっていた可能性があります。
予防できる病気は予防しておこう
くろちゃんは麻酔の覚めも良く、その日に元気に帰宅しました。5日後には無事に抜糸をし、治療終了できました。
潜在精巣の犬や猫では、精巣腫瘍(いわゆるがん)により、命を落とすリスクが大きくなります。腹腔内にある場合にも皮下にある場合にも、若いうちに手術で取ってしまえば、そのリスクはなくなりますので、陰睾の動物では去勢手術を強くおすすめしています。
「愛犬(愛猫)のたまたまが1つしか(1つも)触れない」という飼い主さんは早めに動物病院に相談してくださいね!