乳腺腫瘍摘出術~トイプードルの乳腺全摘出術

犬や猫の寿命が伸びるにつれ、腫瘍を発症してしまうペットの数は増えてきています。悪性腫瘍(いわゆるがん)は、犬の死因の第一位となっており、高齢になればなるほど腫瘍には注意が必要です。

犬や猫に発生する腫瘍にはかなりたくさんのものがありますが、メス犬でもっともよくみられるのが乳腺腫瘍です。先日乳腺腫瘍の手術をしたわんちゃんについてご紹介いたします。

犬の乳腺腫瘍とは~乳腺腫瘍の基礎知識

まずは簡単に犬の乳腺腫瘍のお話をいたします。

乳腺腫瘍の特徴

乳腺腫瘍は以下のような犬に発生しやすいです。

  • 未避妊のメス犬
  • 6歳以上のシニア犬

乳腺腫瘍の症状

乳腺腫瘍は、犬の乳腺にできるしこりです。犬は脇の辺りから内股の辺りまで、左右5対の乳腺(乳首)があり、そのどこにも腫瘍が発生します。そのため、犬の胸~お腹にしこりのようなものがあった場合には乳腺腫瘍の可能性があります。

乳腺腫瘍は比較的硬いしこりになることが多いのも症状の特徴の一つです。

悪性と良性が50%ずつ

犬の乳腺腫瘍には良性の乳腺腫と悪性の乳がんがあり、その割合は50%ずつだと言われています。最近の報告では、良性腫瘍が7割というデータも出ており、大きさが小さいほど良性の可能性が高くなり、大きいほど悪性の可能性が高くなります。

悪性の乳がんを放置すると、リンパ節や肺、骨に転移をして犬の命を奪ってしまうこともあります。

乳腺腫瘍の疫学

乳腺腫瘍の発生率は、避妊手術をしていない犬では25%程度だと言われています。

若いうちに避妊手術をした犬では発生率は非常に下がり、2回目の生理(発情出血)までに避妊手術をしておくと、発生率は1%未満になるというデータもあります。

実際に動物病院で診察する乳腺腫瘍のほとんどは、避妊していないメス犬での発生となります。オス犬の乳腺腫瘍は非常に珍しいですが、オス犬に発生しないということはありません。

乳腺腫瘍の治療

乳腺腫瘍の治療には、手術、抗がん剤、放射線などの治療がありますが、最も効果が確実で、完治が期待できるのが手術による外科治療となります。たとえ乳がんであっても、手術で大きく取ることで、完治させられることも多いです。

乳腺腫瘍の手術には、以下の3種類の方法が取られます。

  • 結節摘出術:しこりの部分だけをくりぬくように手術する
  • 領域乳腺摘出術:比較的関連性の高いと言われている第1~3、あるいは第3~5までの乳腺をまとめて摘出する方法
  • 乳腺全摘出術:第1~5までのすべての乳腺を摘出する手術。再発率は最も低くなるが、手術時間や痛みなどの侵襲は最も大きくなる。

当院での乳腺腫瘍摘出術の様子

では実際に乳腺腫瘍の手術について、当院で行ったトイプードルのちょこちゃん(仮名)の例を交えてお話いたします。

右側乳腺全摘出+左側第3~5乳腺摘出術

ちょこちゃんの乳腺には、小さなしこりがさわれるだけで4つありました。すべてのしこりが1㎝未満で、手術で取り切れば予後が良い可能性が高いです。以下に示すのは、ちょこちゃんのしこりの位置と手術計画の図となります。

チョコちゃんを仰向けにした模式図。黒い点が乳首、赤がしこりの位置を表しています。青は手術で切開するラインを示しています。

手術は、図のように、ちょこちゃんの右側乳腺(図の左側)全摘出術+左側(図の右側)第3-5乳腺摘出術の計画を立てました。

全身麻酔・モニター・毛刈り・消毒

手術は全身麻酔を使って行います。通常の避妊手術や去勢手術と同様に、全身麻酔をかけて、心電図や血圧などのモニターを付けて、状態を観察します。

モニターで全身状態の問題がないことを確認して、毛刈りをし、消毒をしていきました。手術は脇の下から陰部付近まで切開をするため、お腹の広い範囲の毛刈りと消毒が必要になります。

皮膚の切開と乳腺の摘出

皮膚の消毒が終わったら、手術スタートです。

まずは皮膚を切開し、乳腺と皮下脂肪を、筋肉から切除していきます。

半導体レーザーで止血しながら乳腺を分離しているところ

上の写真は乳腺の剥離に半導体レーザーを使っているところです。皮下や乳腺には細かい血管が多く分布しており、止血と切開を同時にできる半導体レーザーは手術時間の短縮と出血量の減少のために非常に役立ちます。

真皮と皮膚の縫合

乳腺をすべて切除したら、次に縫合を行います。傷口がかなり大きいため、しっかり縫合しないと傷の治りが悪くなる危険性があります。

真皮と皮下組織を縫合しているところ。左側の白い布は、傷口を乾燥から防ぐための滅菌生理食塩水を浸したガーゼです。

上の図は真皮と皮下を縫合しているところです。この部位は合成吸収糸と呼ばれる針付きの糸を使って縫っていきます。そうすることで、数か月で異物である糸がすべて吸収されるため、合併症のリスクが少なくなります。

真皮の縫合が終わったら皮膚を縫合します。当院では医療用のステンレスワイヤーの糸で縫うことが多いです。ステンレスワイヤーは糸の強度が高く、組織の反応や感染のリスクがほとんどなく、犬や猫が噛んでしまっても傷が開いたり感染したりするリスクが少ないのがメリットです。

乳腺腫瘍全摘出術は、小型犬でも30針を超える大手術となります。

縫合が終わったら傷口にレーザー照射

縫合が終わったら、傷口にレーザー照射を行います。

実際に、術後にレーザーを当てている画像

半導体レーザーは、止血や切開の目的以外にも、出力モードを変えることで傷口の疼痛緩和や治癒促進の目的で使うこともできます。半導体レーザーを当てると、傷口の血行促進による創傷治癒の促進と、神経伝達のブロックによる痛みの緩和の効果が期待されます。

乳腺腫瘍は予防と早期治療が大切

乳腺腫瘍は、若いうちに避妊手術をすることでかなりの確率で予防することが可能です。子どもを産ませるつもりがないわんちゃん猫ちゃんでは、早め(生後半年~1歳)に避妊手術をされることがおすすめです。

避妊手術に関しては、こちらもページから気になるページを見てみて下さい。

また、乳腺腫瘍が発生してしまった場合、例え悪性でも早期発見早期治療を行えば、完治できる可能性は高くなります。特に避妊手術をしていない中年以降のメス犬・メス猫ではお腹を定期的に触り、硬いしこりがないかどうか確認してみて下さい。もし何かある場合には、早めに動物病院で診察してもらうようにしてくださいね!

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