子猫に多い猫風邪~その原因と治療法
春は多くの猫が出産する季節です。そのため、初夏にはたくさんの子猫が動物病院に来院します。当院でも今年の6-7月はたくさんの子猫ちゃんが来院しました。
そんな子猫ちゃんに多い病気が猫風邪です。今回は、猫風邪についてお話しさせていただきたいと思います。
猫風邪とは?
猫風邪というのは、くしゃみや鼻水などいわゆる人の風邪のような症状を示す病気をさします。猫風邪と言われる病気にはいくつかの原因があります。
猫風邪の代表FVR
猫風邪の原因として最も多いのは、猫伝染性鼻気管炎(FVR)です。FVRはヘルペスウイルスというウイルスが感染して発症します。
ヘルペスウイルスは猫の間で非常に幅広く存在し、症状が治まっても潜伏感染(ウイルスが体の中に残り、体調が悪くなると症状が再発する)しているケースも多いため、特に野良猫や子猫では非常に多くの猫がFVRの症状を示します。
FVRと同じような症状を示すクラミジア感染症
猫のクラミジア感染症でも、FVRと同じような呼吸器症状(鼻水・くしゃみ・結膜炎など)を引き起こします。クラミジアは経験上目の症状が強く出ることが多いです。
目やにが重度であったり、結膜の重度の腫れなどが起きた場合には、クラミジア感染の可能性が高くなります。
細菌感染が悪化要因
ヘルペスウイルスやクラミジアなどの感染による猫風邪は、細菌感染によって悪化してくることが多いです。ウイルスやクラミジアによって鼻粘膜や結膜粘膜にダメージが起こると、環境中の細菌が感染し、病状を悪化させてしまうことは珍しくありません。
猫風邪の子猫ちゃんの治療と経過
では実際の猫風邪の子猫ちゃんの症状や治療について写真を交えてご紹介します。
保護猫「ぼん」ちゃん
今回ご紹介するのは保護猫のぼんちゃんです。推定年齢約1か月。長毛のかわいらしい猫ちゃんです。
写真の通り、ぼんちゃんは強い結膜炎により眼が腫れていました。くしゃみや鼻水も出ており、自分からはご飯を食べることができませんでした。保護して数日間は他の病院で診てもらい、点眼と注射を連日してもらっていましたが、とある事情で当院に来院しました。
風邪の症状は少しましになっているとのことですが、自分で食べようとせず、お家で強制給餌を頑張ってもらっている状態です。
猫風邪と診断
ぼんちゃんは特徴的な症状と発症年齢から、猫風邪と仮診断しました。猫風邪を疑った場合には、確定診断のために目やにやのどのぬぐい液を検査センターに送ることもできますが、検査費用が高いこともあり、多くの場合では症状から診断していきます。(ご希望があれば確定診断のた目に検査に送ることは可能です)
口内炎と脱水も確認
ぼんちゃんを身体検査してみると、軽度の脱水と口内炎があることもわかりました。脱水の確認方法は以下のような方法で行います。
免疫が弱く、体の予備能力が少ない子猫ちゃんでは、さまざまな要因が重なって猫風邪が重症化したり、状態が悪化してしまいます。
ぼんちゃんの治療
梵ちゃんの治療は、一般的な猫風邪の治療をメインに、ぼんちゃんの状態に合わせた方法を考えて行いました。
脱水改善のための皮下点滴
人でも動物でも、体の水分が不足する脱水に陥ると、状態は悪化しますし、食欲も増しません。脱水の改善のためには点滴を行う必要があります。ぼんちゃんは抗生剤の注射はしてもらっていたそうですが、点滴はやってもらえていなかったようです。
犬や猫の点滴の方法には、外来で行う皮下点滴と、入院して行う静脈点滴があります。ぼんちゃんは入院が必要なほど状態が悪いわけではなかったので、皮下点滴による治療を行いました。
口内炎の治療のための鎮痛薬投与とレーザー治療
猫にはウイルスなどに伴う口内炎が多く発生し、口内炎の痛みで食べないというケースがよく見られます。そこで口内炎の治療のために鎮痛薬投与とレーザー治療を行いました。
鎮痛薬の投与
猫に使うことのできる鎮痛薬には数種類ありますが、今回は即効性と子猫への安全性を考え、ステロイド剤を投与しました。ステロイド剤にはいくつかの副作用や使用上のデメリットがありますが、単発で使用する分には副作用のリスクはかなり低く、今回はステロイド剤を選択しました。
レーザー治療
当院では、さまざまな病気の治療にレーザー治療を用いており、口内炎もレーザーによる治療が非常に有効な病気の一つです。
レーザー治療は副作用や痛みなどが全くなく、非常に安全な治療法であり、口内炎を持つ動物には強く勧めたい治療法です。
抗菌薬の投与(抗菌薬の変更)
ぼんちゃんには、数日間抗菌薬の注射をしてもらっていたようですが、抗菌薬の変更を行いました。
猫風邪にはヘルペスウイルス以外にもマイコプラズマやクラミジアが関与するケースが少なくないため、それらの菌に効果のある抗菌薬へ変更し、症状の改善を目指しました。
抗菌薬は飲み薬と点眼薬によって投薬し、点眼薬には抗ウイルス作用の期待できるインターフェロンも添加しました。
ぼんちゃんの治療経過
ぼんちゃんの治療経過は以下の通りです。最初は目も開きずらかったですが、約2週間ですっかりきれいに良くなりました。とっても愛らしい表情をしていますね!




早めに治療すれば、ぼんちゃんのように強い症状が出ていてもきれいに完治できることは少なくありません。
猫風邪の子猫は早めにしっかり治療をしましょう
猫風邪は、非常に多い病気であり、特に子猫では時に重症となります。体力や免疫力に乏しい子猫では、他の感染症などを併発して命を落としてしまうことも珍しくありません。また猫風邪を放置しておくことで、眼球に感染症を起こして失明してしまうこともあります。
愛猫にくしゃみや鼻水、目やになどがある場合には早めに病院を受診して下さいね!
- 多頭飼い
- 子猫
- ワクチン未接種
などの家庭では、家中に猫風邪が蔓延したり、命に係わる重度の感染を起こすことがあるので、できるだけ早めに動物病院で診てもらうようにしましょう!