巨大乳腺腫瘍の摘出術

当院では、ここ最近非常に手術の件数が多くなっています。その大半は避妊手術や去勢手術などの予防的手術ですが、病気の治療のための手術も徐々に増えてきています。

先日、大きな乳腺腫瘍の手術を行いましたので、ご紹介いたします。

13歳のコーギーちゃんの乳腺腫瘍

今回ご紹介する症例は、13歳ウェルシュコーギーのコーちゃん(仮名)です。

コーちゃんは2年前に乳腺腫瘍ができ、他の病院で乳腺腫瘍の摘出術と避妊手術を同時にしてもらっていました。

今回当院へは、摘出した部位と違う乳腺にしこりができ、それがどんどん大きくなってきてしまったということで来院いたしました。

乳腺に15㎝を超える巨大な腫瘤

まずは初診の患者さんすべてに行うのと同じく、問診と身体検査を行いました。

コーちゃんは13歳と高齢ではあるものの元気や食欲も問題なく、一般状態は良いということでした。身体検査上も長身や触診など腫瘤以外には大きな異常はありませんでした。

腫瘤は直径が実に15㎝以上。ここ1カ月くらいで急激に大きく泣てきているとのことでした。以前の手術がどのようにされたのかは不明でしたが、右の第3乳腺付近から発生しているようで、巨大腫瘤の頭側にも小さな腫瘤がありました。

このまま大きくなり続ければ、いつか自壊(腫瘤が破裂すること)して、出血や感染がひどくなる可能性が高いことや薬などで治療するのが不可能なことから、手術を前提としてお話をしました。

術前検査は大きな異常なし

手術の前の術前検査にはいくつかの検査がありますが、麻酔のリスクや一般状態を知るための血液検査、転移の有無や心肺機能のチェックのための胸部レントゲン検査を行いました。

血液検査でも胸部レントゲン検査でも大きな異常は認められず、手術のリスクはそれほど高くないと判断し、飼い主様と相談の上、3週間後に手術を行うことになりました。

術前に腫瘤が自壊

初診日から1週間後、「乳腺腫瘍が自壊してしまった」とコーちゃんの飼い主様から電話が入りました。手術まで経過観察の予定でしたが、急遽来てもらうと腫瘍の表面から出血し、ジュクジュクしている状態でした。

コーちゃんの乳腺腫瘍。 赤丸の部分がすべて腫瘍で、黄色矢印は腫瘍が自壊して出血している部位。

幸い、出血もすぐ止まり、化膿もそこまでひどくなかったので、抗生物質と消毒で手術まで悪化しないようにしてもらいました。

乳腺腫瘍摘出術

手術当日まで薬を飲んでもらい、手術です。

手術前に

コーちゃんは元気といえどもすでに13歳以上。人でいえば80歳近い年齢です。全身麻酔のリスクは小さくないので、麻酔リスクを低くするためにいくつかの準備を行いました。

術前の点滴

手術前は全身麻酔をかけるために絶食水が必要となりますが、高齢動物では術前の絶食水で脱水してしまうことがあります。そのため、手術でお預かりをしてから約3時間の間、術前に点滴を行いました。点滴は術中・術後も点滴は継続しています。

手術前に昇圧剤を追加

コーちゃんの主流は非常に大きいため、手術時間が1時間を超える可能性が高いです。手術時間が長くなる可能性が高く、その場合に血圧が下がってしまう危険性がありました。そのため、点滴に昇圧剤を追加し、血圧が少しでも下がらないようにしておきました。

乳腺腫瘍摘出術

全身麻酔をかける

外科手術を行うためには、全身麻酔が必要になります。常法通り、血管の管から注射の麻酔導入薬を入れ、気管チューブを設置し、ガス麻酔で維持します。心電図や血圧、酸素濃度などのモニターを行い、体に大きな異常がないかどうかをチェックしました。

コーちゃんは、14歳の割には心肺機能や肝臓腎臓などの内臓機能がしっかりしており、心拍や血圧などは非常に良い状態でしたので、そのままモニターしながら手術を開始しました。

乳腺腫瘍摘出術

乳腺腫瘍摘出術は、以前に紹介したように、いくつかの術式があります。以前の乳腺腫瘍全摘出術の記事はこちらをご覧ください。

今回のコーちゃんは、高齢であることと、触診で大きな腫瘤一つとその近くに小さな腫瘤が一つのみ触れることから腫瘤のみの部分摘出を行いました。

摘出した腫瘤

手術は約1時間半、無事に目が覚めてくれてほっとしました。摘出した腫瘤が以下の写真です。

摘出した乳腺腫瘍。直径は一般的なボールペンとほぼ同じ(約15㎝)と非常に大きな腫瘍です。乳腺腫瘍はかなり巨大になることも多く、大きくなると表面が破れて自壊してしまうケースも少なくありません。

術後経過

術後は1泊入院をし、出血がないことや元気食欲があること、傷口が問題ないことを確認して帰宅としました。術後に調子を崩してしまう動物はそれほど多くはありませんが、コーちゃんは帰宅後も元気食欲問題なく過ごしてくれたようです。

術後約2週間ですべて抜糸し治療終了としました。腫瘍の手術後には、摘出した腫瘤を病理検査に回すことが多いのですが、今回は飼い主さんの希望がなかったため、検査はしませんでした。

乳腺腫瘍の予防には避妊手術を

コーちゃんは無事に手術を終えることができ、今は元気に過ごしています。しかし、今回で2回目の手術、またいつ乳腺腫瘍が再発するかわかりませんし、乳がんであれば(検査をしていないので乳がんか良性乳腺腫かは不明です)転移などの可能性もあります。

乳腺腫瘍はできてしまってから手術をするよりも、事前に予防することが大切です。データでは、避妊手術をしていない犬では4頭に1頭で発生する乳腺腫瘍は、初回発情前に避妊手術をすると200頭に1頭未満の発生率になるといわれています。実に50分の1以下になるんです。

命の危険があったり、何度も手術が必要となる乳腺腫瘍。できるだけ早期に発見して積極的な手術をすることも大切ですが、子犬を生ませるつもりがない場合には、若いうちに避妊手術をしてもらうことがおすすめです。当院で行う避妊手術についてはこちらのページも参考にしてみてくださいね!

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