猫の腸重積(空腸回腸端々吻合術)

久しぶりの更新となります。院長の後藤です。

先日、腸重積の猫ちゃんの手術がありました。突然の嘔吐と元気の消失から命の危険のある腸重積。若い猫ちゃんでも要注意の病気「腸重積」についてお話させていただきます。

腸重積とは

腸重積は、腸の一部が他の腸に入り込むことによって腸閉塞を起こしてしまう病気です。

腸重積の概要

腸重積は子猫~高齢猫までどの年代でも発症する可能性のある病気です。犬や猫の腸閉塞の原因としては、異物による閉塞が最も多いですが、腸重積による腸閉塞も時々見られます。

子猫や若い猫では、激しい下痢や嘔吐などによって腸の動きが活発になりすぎることが原因となることが多いと言われていますが、はっきりした原因がわからないケースもあります。

一方、高齢の猫では腸の腫瘍に続発するケースが多いと言われています。

腸重積の症状

猫の腸重積では以下のような症状を起こすことが多いです。

  • 嘔吐
  • 食欲不振~廃絶
  • 下痢・血便
  • 腹痛
  • 元気消失

ただし、何となく元気がない・食欲がないなど、あまりはっきりしない症状であるケースもあり、激しい症状がないからと言って腸重積を否定することはできません。

腸重積の診断

腸重積の診断に最も有用なのは、超音波検査です。超音波検査で腸の中に入り込む腸を見つけることで診断が可能です。ただし、確定診断をするためには、CT検査や試験的開腹術が必要になってくることが多いです。

その他、レントゲン検査(バリウム検査を含む)や血液検査も、他の病気の除外や全身状態の把握のために行います。

腸重積の治療

腸重積は薬で治せるものではないため、治療のためには開腹手術が必要になります。症状や検査で腸重積が疑われた場合には、全身麻酔をかけて開腹し、腸重積を確認して整復します。

重責が軽度で時間がたっていない場合には、重責部位を引っ張り出して再度重責しないように腸を固定することで治療が可能です。ただし、重責が重度な場合や時間がたっている場合には、重責した腸の血流が遮断され壊死を起こしてしまうため、重責部位を切除して状態の良い腸をつなぎ合わせる(端々吻合)手術が必要になります。

腸重積は手術が成功すれば完治することが多い病気ですが、術前・術後に腹膜炎をおこしたり、癒合不全を起こすことも少なくなく、その場合は命にかかわる病気です。また、腫瘍が原因である場合には、腫瘍の再発や転移などが起こるケースもあるため注意が必要です。

早期発見早期治療によって予後が良くなるため、腸重積を疑うような症状がある場合には早めに動物病院を受診することが大切となります。

腸重積の症例のご紹介

今回、腸重積の手術を頑張ったのは3歳の雌猫ちゃん、にゃんちゃん(仮名)です。

にゃんちゃんの症状

にゃんちゃんは3日前に嘔吐をし、その翌日、翌々日とかかりつけの動物病院で血液検査や超音波検査などをしてもらい、異常が見られず点滴や吐き気止めなどの治療を受けていたとのことです。

それでも嘔吐が止まらずよだれが止まらないという主訴で、当院を受診しました。当院での身体検査の結果、元気消失と発熱(39.4℃)、よだれ、腹痛などの症状を確認しました。

にゃんちゃんの検査

症状から腸閉塞を強く疑い、かかりつけ病院で行っていないレントゲン検査をまず行いました。レントゲンでは腸管の走行やガスの貯留像に異常が見られたため、念のため再度超音波検査をさせていただきました。

 

この画像のように、腸の中に腸が入り込むような所見が認められたため、腸重積と仮診断をし、以下の点を飼い主さんにお話ししました。

  • 検査所見からは腸重積が強く疑われる
  • 腸重積の場合は早めに手術をしないと命の危険がある
  • 腸の状態が良ければ腸管切除せずに整復のみで済む可能性もあるが、状態が悪ければ一部の腸を切除してつなぎなおす手術が必要になる
  • 手術をしても、合併症により命を落とす可能性もあるが、手術をしないと助かる可能性はかなり低い
  • 選択肢は、当院で緊急手術をするか、点滴などで状態を落ち着かせて翌日かかりつけの動物病院で手術をするか

以上のことをお話したところ、当院での手術をご希望されたため、手術を行いました。

実際の手術

手術までの間、脱水や電解質の異常の補正のために点滴をし、その夜手術を行いました。

※術中の写真は小さくしてありますが、クリックすると拡大できます。苦手な方はクリックしないようお願いいたします。

 1.麻酔・モニター

動物の開腹手術は基本的に全身麻酔で行います。

注射の麻酔を入れた後、気管にチューブを挿管し、酸素とガス麻酔を流します。心電図や血圧、酸素濃度などのモニターを取って、問題がないことを確認し、毛刈りや消毒を行ってから手術を始めていきます。

2.開腹・腸の確認

手術をスタートするにあたり、まずはお腹を切開してお腹の中にアプローチしていきます。皮膚の切開をした後、腹筋を切開し、腸の状態を確認します。

猫の腸重積術中写真 腸の状態を確認したところ、左の写真のように重責した腸が見つかりました。予想した通り、回腸が結腸に入り込む、回腸結腸重責という状態になっていました。

用手による整復が可能か引っ張ってみたところ、何とか引っ張り出すことができたものの、腸の状態は悪く、出血も多かったことや腫瘍の可能性も考えて、状態の悪い腸を切除することにしました。重積解除後の全体像腸重積解除中の状態

3.腸の切除・吻合

腸切除後腸の内容物が漏れ出てこないよう、切除する部位の近位(上部)と遠位(下部)に腸鉗子をかけて、腸を切除しました(左写真)。

大腸と小腸では断端の径がかなり違うため、小腸を斜めに切ってトリミングし、大腸と吻合(端々縫合)しました(下写真)。その後、生理食塩水を腸内に注入し、縫合部からの漏れがないのを確認すし、保護のために大網を縫合部にかけて、閉腹して手術は終了しました。手術時間約2時間、麻酔の覚めは良好でした。

術後~退院まで

麻酔から目が覚めたら、しばらくはICUで入院となります。

手術から24時間で流動食をスタートし、徐々に食事を固くしていきます。にゃんちゃんは術後の回復が非常によく、翌日より食欲元気もしっかり戻り、嘔吐やよだれなども一切なくなりました。

腸の端々吻合をした後に一番気を付けなければならないのは、腸の癒合不全(縫合した腸がくっつかずに超内容物が腹腔内に漏れてしまうこと)です。

術後1週間くらいの間は、癒合不全に伴う腹膜炎の症状(嘔吐・食欲不振・発熱・腹痛・頻脈など)に注意をしながら見ていきました。幸い、にゃんちゃんはそういった症状が一切なく、調子は良かったものの、便がなかなか出なかったため、便を柔らかくするお薬などを使って排便を促したところ、しっかり便が出てくれるようになりました(便が溜まりすぎると、縫合部に負担がかかるため危険です)。

トータル5日の入院の後、にゃんちゃんは元気に退院しました。腫瘍の可能性も否定できなかったため、切除した腸を病理組織検査に出しましたが、腫瘍ではなかったということで飼い主さんとともに安堵しました。術後10日程度で抜糸して、今も元気に生活しています(先日予防にご来院いただきました)。

腸重積は突然起こる

今回のにゃんちゃんのように、腸重積は突然起こります。最初の嘔吐の時からすでに腸重積になっていたのか、激しい嘔吐に伴って重積が起きたのかはわかりませんが、腸重積は突然命に係わる状況になる怖い病気です。

嘔吐や腹痛など腸重積が疑われる症状がある場合には、早めに動物病院を受診してくださいね!

 

 

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