重症熱性血小板減少症候群(SFTS)の最新情報

2017年10月に、犬からヒトへウイルスが感染してSFTSが発症したというニュースが飛び込んできました。今年の夏には野良猫に噛まれた女性がSFTSを発症して死亡するという事例(猫からウイルスが感染したかどうかは不明)も報告されています。

非常に致死率が高いSFTS。犬や猫との関係を心配されている飼い主さんも多いと思います。2017年現在、わかっている情報をまとめておきますので、ぜひ参考にしてみてください。

SFTSとは

まずは、SFTSについての簡単な知識を入れておきましょう。

SFTSウイルスはダニが持っている

SFTSウイルスはダニが持つウイルスであり、日本、韓国、中国での報告が多い、東アジアに分布するウイルスです。ダニのウイルス保有率にはいくつかの報告がありますが、ダニの10%程度が持っていると考えられます。

日本ではフタトゲチマダニとタカサゴキララマダニが媒介すると考えれています。

フタトゲチマダニ(吸血前)

フタトゲチマダニ(吸血後)

タカサゴキララマダニ(吸血前)

タカサゴキララマダニ(吸血後)

 

 

 

 

 

 

ウイルスの分布には地域性があり、一般的に西日本で多く、東日本や北日本では少ない傾向があります。

ダニに刺されて感染する

ヒトや動物はダニに挿されることでウイルスが体に入り感染します。感染してもすべての人や動物が発症するわけではないようで、ウイルスが存在する地域では、数%の人がウイルス抗体を持っているという報告があります。

発症すると重症化する

ウイルスに感染した人は1~2週間の潜伏期間を経て発症すると言われています。その主な初期症状は発熱、全身倦怠感、消化器症状で、重症化し、死亡することもあります。致死率は6~30%とも言われています。

私は人の医者ではないため、人の症状や治療に関する詳しい話をかくのは控えさせていただきます。厚生労働省のHPにもSFTSの詳細が載っていますのでぜひ参考にしてみてください。

幅広い動物が感染する

SFTFウイルスは幅広い哺乳類に感染することが知られています。犬や猫などのペットだけでなく、イノシシやシカ、豚、タヌキやアライグマなどからもウイルス交代が検出されています。

特に野生動物では犬や猫に比べると高い感染率が報告されています。ダニに刺されやすい動物ほど感染率が高い可能性があります。

SFTSウイルスは増えている?

SFTSウイルスは、2009年に中国で初めてヒトに感染して発症したことが報告された新しいウイルスであり、その数は急速に増えている可能性が考えれます。

日本の野生のアライグマの調査では、2007年にはSFTSウイルス抗体陽性率が0%だったのに対し、2014年には24.2%と、野生動物の間で爆発的に増えているというデータが出ています。

http://www.eiken.co.jp/modern_media/backnumber/pdf/MM1602_01.pdf

動物からヒトへのSFTSウイルス伝搬の可能性

2017年に入り、動物からヒトへSFTSウイルスが伝搬した可能性があるという報告がありましたので、まとめておきます。

1.50代女性・西日本在住

  • 2017年、弱った野良猫を保護しようとし、噛まれた
  • その猫はSFTSを発症していた
  • 女性は約10日後にSFTSを発症し死亡
  • 女性の皮膚にはダニに噛まれた跡はなかった

野良猫の咬傷からのSFTSウイルス感染の疑いのニュースです。ダニに噛まれた跡がなかったこと、SFTSを発症した猫に噛まれて10日後に死亡したため、野良猫の咬傷による感染が強く疑われています。ただし、猫から女性にうつったという因果関係は証明されていません。

2.40代男性・徳島県在住

  • 飼い犬が発熱や血便など体調不良を起こす⇒SFTSを疑った獣医師が専門機関に検査を依頼し、SFTSの診断が下る。
  • 飼い犬が調子を崩してから1週間後、飼い主も犬と同じような症状を起こす。
  • 9月になって飼い主も検査によりSFTS抗体が見つかる(SFTSに過去に感染していた証拠)。
  • 飼い主は犬に噛まれてはいないが、舐められるなどしていた。

この男性のケースでは、SFTSを発症した犬の唾液から、SFTSウイルスが飼い主に感染したものと考えれています。詳細は不明ですが、ヒトからヒトのSFTSウイルス感染では、体液が粘膜や傷ついた皮膚から入ることでウイルスが伝搬すると言われているため、このケースでも唾液の中のウイルスが粘膜や傷のある皮膚から感染した可能性があるのではないかと思います。

犬と猫のSFTSの症状

SFTSは非常に新しい病気であり、犬や猫の発生報告もまだ多くありません。そのため、SFTSでどのような症状が出て来るのかはまだまだ不明な点が多いです。

厚生労働省のHPには以下のような記載があります。

発熱(39℃以上)、白血球減少症(5000/ mm3以下)、血小板減少症(10万/ mm3以下)、食欲消失等の症状が認められ、さらに入院を要するほど重症(自力採餌困難等)で、かつ既存の細菌・原虫・ウイルス(パルボウイルスなど)の感染が否定された場合には、SFTSが疑われます。臨床症状や血液検査等だけではSFTSの確定診断はできませんので、ウイルス学的検査を実施することが必要です。

他にいくつかの報告を見る限り、発熱・消化器症状(下痢・嘔吐・血便・食欲廃絶など)・黄疸などが一般的な症状であるようです。ただし、野生動物や中国の犬で、SFTSウイルスの抗体を持っている動物が多かったことを考えると、不顕性感染(感染しても症状を出さない)を起こし、そのまま治癒してしまうことも少なくないようで、感染しても気づかないうちに治っている子もいるのではないかと考えます。

SFTSウイルスから自分とペットの体を守るためにできること

報告例は多くなく、リスクはそれほど高くはありませんが、犬や猫からヒトにSFTSが感染する可能性があるということは、SFTSは人獣共通感染症(ヒトと動物の間で感染するリスクのある病気)だと考えておいた方がいいでしょう。自分もペットもどちらも感染しないようにすることを考えないといけません。

ペットをSFTSウイルスから守る方法

ペットの健康を守る意味でも、自分の感染リスクを減らすためにも、ペットのSFTSウイルス感染を防ぐことは大切です。

マダニ予防をしっかり行う

現在、複数のメーカーからさまざまなタイプの犬猫用マダニ予防薬が販売されています。フロントラインプラス(犬・猫)やフォートレオン(猫)のような背中に垂らすスポットオン製剤、ネクスガード(犬)やブラベクト(犬)などの飲み薬が販売されており、どれも効果が非常に高くなっています。

特にフォートレオンは、ダニが吸血する前にマダニを駆除してくれるのが売りのアイテムです。作用機序を考えると、現時点では犬のSFTSウイルス感染のリスクをもっとも減らしてくれるお薬ではないかと考えます。

ペットショップで買える市販のノミダニ駆除・予防薬に関しては、効果がかなり低く、皮膚の荒れなどの副作用を起こしやすいため、推奨されません。市販のノミ・マダニ予防薬を使ってもノミやマダニが付いたとか、皮膚が真っ赤になってしまったという主訴で動物病院に来院される飼い主さんは多いので、市販の予防薬はやめておきましょう。

猫は外に出さない

猫もフロントラインプラスでマダニ感染の予防はできます。ただし、野生動物や野良猫と喧嘩をしてSFTSウイルス感染を起こす可能性はゼロではありません。

私が検索する限り、2017年10月現在、ダニを介さない動物⇔動物の直接感染の報告はありませんが、動物⇔ヒト、ヒト⇔ヒトの感染が報告されているため、動物⇔猫の感染も十分あると考えます。特に体液同士の接触は感染リスクが高いと言われていますので、野生動物に噛まれてしまった場合は、猫がSFTSウイルス感染を起こす可能性は十分考えられます。

他の病気や事故の可能性ももちろんありますので、そういったリスクを減らすためには猫を外に出さない方が安全でしょう。

自分をSFTSウイルスから守る方法

マダニに刺されないようにする

犬や猫からヒトにSFTSウイルスが感染したというニュースが出てきており、そちらに注目が集まっていますが、現在までのところ、その報告は2例のみ(野良猫による咬傷と飼い犬から)であり、どちらも因果関係が100%証明されたものではありません。一方で、マダニの刺し傷からのSFTS感染の報告は300例を超えており、死亡例も50以上報告されています。つまり、現時点で犬や猫などのペットより、圧倒的にマダニからの感染リスクが高いのです。

マダニに刺されないようにするためには、草むらに行かない・肌を出さない・忌避剤を使うなどあります。国立感染症研究所のHPにもマダニから身を守る方法が載っていますので、以下のリンクをぜひ参考にしてみてください。

マダニ対策、今できること

野生動物は触らない

SFTSウイルスは、宿主特異性(感染する動物が決まっていること)がほとんどないようで、アライグマ・イノシシ・羊・牛・豚・鶏など多くの動物から報告されており、中には50%以上の動物からSFTSウイルス抗体が検出(以前SFTSウイルスにかかっていたという意味)されたという報告もあります。

野生動物はダニに噛まれる機会も多く、SFTSウイルスに感染しやすい可能性が高いです。野生動物を触ろうとして噛まれてしまうと、ウイルスに感染してしまうかもしれません。野良猫を含めて、野生動物にはむやみに触らないようにしておいてください。

また、保護活動の一環で野良猫などを保護する必要がある場合は、捕獲器や厚手の防護手袋をして、噛まれないように注意しておいた方がいいでしょう。特にSFTSウイルスが分布している西日本では注意が必要です。

ペットをSFTSウイルス感染から守る

ペットをSFTSウイルス感染から守ることは、自分の感染リスクを減らすことにもつながります。マダニ予防などはしっかり行っておきましょう。

こんなときどうする?

犬や猫がマダニをつけて帰ってきた

マダニ予防をしていればこういったことはありませんが、気付いたらマダニが付いていた場合には以下のような対応をしましょう。

1.動物病院へすぐに行く

マダニの吸血時間が長くなるほど、SFTSウイルスの感染の危険性が高まると考えられます。SFTSウイルスだけでなく、バベシアなど他の感染症のリスクも高くなってしまいます。また、マダニが吸血して膨らみ切ると産卵してしまう可能性があり、その場合には感染性を持つマダニが大量発生する危険もあります。

マダニが付いているときはできるだけ早く取ってあげる必要があります。家でも取れなくはないですが、口が残ってしまうこともあり、皮膚の炎症やSFTSウイルス感染のリスクを増してしまうかもしれませんので、できる限り動物病院へ行きましょう。すぐに行けない場合には以下にうまく取れるコツを載せておきますので、そちらも参考にしてみてください。

2.マダニ予防薬を処方してもらう

見えているマダニが取れたと言っても安心はできません。他にもマダニが付いている可能性があります。犬は毛がふさふさしているため、他にマダニがいても毛に隠れて見えないこともありますし、吸血前のマダニは非常に小さいため、見つけるのは困難です。

マダニ予防薬は駆除役にもなるので、1匹ついていた場合には今後の予防も兼ねてすぐにマダニ予防薬を付け(飲ませ)ておきましょう。

3.SFTSの症状に注意

犬と猫のSFTSに関してはまだまだ不明な点は多いですが、ヒトの報告も考えると、SFTSを発症した場合、数日の潜伏期の後に発熱や食欲廃絶、消化器症状などの症状が出て来る可能性が高いです。刺されてから2週間以内は症状が出てこないかどうか十分に注意しましょう。もし何らかの症状がある場合は、早めに動物病院で検査をしてもらいましょう。

また、症状がなくても不安な方はダニを見つけてから1週間くらいでペットの血液検査をしておいてもらってもいいでしょう。症状が出るより先に、血液検査の数値に異常が出てくる可能性がありますので。

※ダニを見つけても動物病院へ連れていけない場合

  1. 消毒用アルコールをティッシュや綿花にしみこませ、1分ほどマダニの上にかぶせる(ダニが酔って噛む力が弱まります)

    アルコールは、目に入ると危険ですので、目のまわりにダニが付いている場合にはこの手順を省きましょう。

  2. ピンセットなどで軽くダニの体をつまむ

    強くつまむと体がつぶれて中身が出てきますので軽くつまむようにしてください

  3. 引っ張らずに右か左どちらかにくるくる回す

    引っ張ると口の部分が残ってしまいます。引っ張らないようにしながら何回転かくるくる回しましょう。うまく行くと抵抗なくすっと取れます。

  4. 取れたら素手で触らないようにして袋に入れ、スプレータイプの殺虫剤などで殺す

    つぶれていなければ素手で触ってもいいですが、噛まれないようにしてください。また、つぶれている場合にはその体液にウイルスが含まれている可能性があるので取り扱いには最大限の注意を払いましょう。

  5. 行けるときに動物病院へ行き、マダニ予防薬を処方してもらう

    他についている可能性のあるマダニを落とすとともに、今後マダニが付くのを予防するために、必ず動物病院でマダニ予防薬を処方してもらいましょう。マダニが付いたことがあるということは、その子の生活圏内にマダニが必ずいるということですので、再度マダニが付いてしまう可能性は非常に高いです。

ペットの体調が悪く、SFTSかもしれない

SFTSで起こると言われている発熱や下痢などの消化器症状は、かなり一般的な症状であり、他にもさまざまな病気が考えられます。また、ペットのSFTSの報告は少ないため、可能性としてはSFTS以外の病気の方が圧倒的に高いと思われます。

それでも、SFTSの可能性は否定はできません。特に数日前にダニが付いていたという場合はその可能性が少し高くなります。唾液や尿などを素手で触らないようにし、噛まれないように気を付けながらできるだけ早めに動物病院へ連れて行きましょう。トラブルを防ぐためにもSFTSが疑わしい場合は、受付の際に一言言っておくようにしましょう。

現在のところ、SFTSの確定診断は動物病院内で行うことはできませんが、血液検査をすることで可能性が高いのか、かなり低いのかの判断を行うことはできます。また、検査所見がSFTSと一致する場合は、血液や唾液などを検査センターに送ってもらい、ウイルスの検査をしてもらってください。

飼い主自身のSFTSが心配

ヒトのSFTSに関しては動物病院ではなく、ヒトの病院や保健所に問合せをしましょう。「体調の悪いペットに噛まれたが大丈夫か?」などといったことも保健所に一度問い合わせてみてください。

マダニ対策をしっかり取ることがSFTS対策には大切

猫や犬からうつる可能性のある感染症のニュースはインパクトも強く、心配になる飼い主さんも少なくないと思います。ただし、過度に心配をする必要はなく、しっかりペットのマダニ対策をしておくことが大切です。

自分もペットも安心で健康に暮らすためにも、ペットのマダニ対策はしっかりとっておくようにしましょう。

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