犬のフィラリア症⑥ フィラリア症の治療
フィラリア症は予防が大切というお話を今までしてきました。しかし、予防をし忘れてしまって感染してしまったり、保護犬の里親になったらフィラリアに感染していたということもあるでしょう。
では、フィラリアにかかってしまっている場合には何もできないのでしょうか?今回はフィラリア陽性犬の治療を考えてみましょう。
フィラリア成虫は殺せない
フィラリアが感染していれば、その虫を殺せばいいと思うと思いますが、そうではありません。
フィラリア成虫を殺すと血管に詰まって危険
消化管にいる虫であれば、薬で殺してしまい、便に出て来るかお腹の中で消化されてしまうのを待つだけで済みますが、フィラリアはそうはいきません。
フィラリアの成虫は血管の中に棲む長さ10cm以上ある大きめの虫です。そのフィラリアを殺すと大量のフィラリアの死骸が血管の中に詰まってしまい、血流が一気に悪化してしまいます。つまりフィラリアを殺すことで、犬の命も奪ってしまう可能性があるということです。
基本的には寿命を待つ
フィラリア成虫の駆虫は危険を伴うため、フィラリアの治療は基本的にはフィラリアが寿命で死ぬのを待つことです。フィラリアが寿命を迎えて死ぬ場合は、詰まって血流が悪化するリスクは少ないです。
フィラリアの寿命は5~6年と言われていますので、その間に新しいフィラリアが感染しないよう、予防をしながら成虫が寿命を迎えるのを待ちましょう。
成虫の寿命を縮める「ボルバキア」治療
フィラリアは寿命を迎えるまで待つ必要がありますが、素のフィラリアの寿命を短縮させる治療方法が最近見つかりました。
ボルバキアがフィラリアの寿命を長くしている?
ボルバキアは細菌の一種ですが、昆虫などに広く感染していることが分かっており、フィラリアにも感染していることが多いようです。
そしてこのボルバキアを駆除することでフィラリアの寿命が非常に短くなることがわかってきました。実際にボルバキアを抗生剤で除去することで、フィラリア成虫が1.5~2年で死ぬという報告もあります(https://parasitology.cvm.ncsu.edu/vmp930/supplement/heartworm%20soft%20kill%20weekly+DOC.pdf)。
ボルバキアはフィラリアの毒性を高める?
ボルバキアはフィラリアの寿命を長くしているだけでなく、フィラリアが犬の体に与える影響を強くしている可能性も指摘されています(https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/20949416)。
血管の中で炎症が起こると、血管の変性が起きて血流が悪化して、心不全が進行するスピードが速くなります。ボルバキアが感染していることでフィラリアの毒性が高まっている可能性があるのです。
抗生物質での治療が有効
フィラリアからボルバキアを除去するためには、抗生物質を投与していくことが有効であると考えられています。詳しい話はアイビーペットクリニックにご相談ください。
フィラリアによる影響を緩和する治療
フィラリアそのものに関しては、寿命を迎えるのを待つか、少しでも寿命を短くするためにボルバキア治療を行うしかありません。ただし、フィラリアが感染することによる体の影響を減らすためには治療が必要なケースがあります。
心不全に対する治療
フィラリアで最も影響を受けるのが心臓です。特に右心不全と言われる右心室や右心房、三尖弁の異常に伴う心不全症状が出てきてしまうことが多いです。
状態に合わせて、血管拡張薬や強心剤、利尿剤などを使う必要があります。フィラリアの寄生数が少なく、心臓に負担がかかっていない場合は特別な治療が必要のないことも多いです。
咳に対する治療
フィラリアに感染すると
- フィラリアがいることによる肺や気管支の炎症・浮腫・線維化
- フィラリアによるうっ血性心不全
により、フィラリアに気付く最初の症状として咳が出てきくることが多いです。
咳が出る場合は、心不全の治療や咳止めなどが必要になることがあります。
腹水の治療
右心不全の末期になると、腹水が大量に溜まることがあります。比較的元気でも腹水のせいで動くのがしんどくなったり、食欲が落ちてしまうこともあります。腹水が溜まり始めた場合には、まずは心不全の薬で治療をしますが、それでも腹水が溜まり続けてしまう場合には腹水を抜く処置が必要になります。
腹水はお腹に太めの針を刺して抜きます。かなり腹水が溜まっている場合には、10㎏以上の大きめのわんちゃんだと3リットル以上抜けることもあります。基本的に薬で腹水のコントロールできないのであれば、腹水を抜く処置が必要になりますし、その場合は、定期的(数日~数週に1度)に抜く必要が出て来ることが多いです。
まとめ
フィラリアの治療に関するまとめです。