犬のフィラリア症② フィラリア症の病態と症状~慢性フィラリア症と急性フィラリア症

前回の記事でお話しした通り、フィラリアに感染した蚊に刺されると、フィラリアの子虫が犬の中に入ってきます。フィラリアの子虫は目に見えないほど小さく、犬の体内に入っても特別害を起こしません。問題になるのは、フィラリアが成長して、成虫になった時です。

今回は、フィラリア症の症状についてお話しします。フィラリア症は大きく分けてフィラリアが長期的に棲むことで症状が起こる「慢性フィラリア症」と、フィラリアの虫が心臓の便に絡まって急激な症状を起こす「急性フィラリア症」があります。それぞれの症状を知っておきましょう。

フィラリアの成虫は肺動脈に寄生して血流を阻害する

フィラリアは成虫にまで成長すると、心臓の出口近くの「肺動脈」に寄生すると言われています。こちらの図をご覧ください。

犬 フィラリア 肺動脈

フィラリアは、心臓の黄色の部分(右心室から血管に出た部分)である肺動脈に寄生します。本来、血液がスムーズに流れるはずの場所にフィラリアが棲んでしまうため、さまざまな症状が出てきます。

 

 

 

 

 

 

慢性フィラリア症の病態と症状

慢性フィラリア症は、肺動脈にフィラリアが長期・大量に存在するときに起こるフィラリアの症状です。どれくらいの期間で慢性フィラリア症の症状が出て来るのかは、寄生数にもよりますが、通常数年間フィラリアが肺動脈に生息することで慢性フィラリア症の症状が出てきます。

慢性フィラリア症の初期 肺動脈のダメージと咳

肺動脈には右心室から肺へ血液を送るために強い血流があります。その血流に流されてしまわないよう、フィラリアは常にくねくねと動いています。河の流れに逆らって泳ぐサケを思い浮かべてもらうといいでしょう。

つまり、フィラリアが感染していると、フィラリアが常に動き肺動脈に刺激を与えることになります。また、フィラリアからの排せつ物や死んだフィラリアなどが血管壁に沈着したり、細い血管に詰まることもあります。これらの刺激は肺動脈の炎症の原因となり、肺動脈の狭窄やその周りの炎症などを引き起こします。

これらの変化によって、乾性フィラリア症の犬では咳が出て来ることが多く、咳は慢性フィラリア症の初期症状の最も一般的なものになります。さらに肺動脈の変化が進行すると、肺への血流が低下して、運動不耐性(運動するとすぐに疲れてしまう)や失神が起こることがあります。

慢性フィラリア症の末期 うっ血性心不全と腹水

フィラリアが肺動脈の血流を悪化させると、血流を阻害するフィラリアがいても肺動脈から肺へ血液を送れるように、肺動脈の血圧が上がります。これが「肺高血圧」と呼ばれるものです。

肺高血圧が起こると、その血圧が高い場所に血液を送る必要があるため、右心室の血圧が上がります。右心室には、右心房から三尖弁を通って血液が送られてきますが、右心室の血圧が上がり過ぎると、弁にも負担がかかり、本来右心房から右心室にしか流れない血液が、右心室から右心房に逆流します。これが「三尖弁逆流」であり、この状態になると、心臓の聴診で心雑音が聴取されます。

犬のフィラリア症 右心室 うっ血性心不全 三尖弁逆流三尖弁逆流が起こると、右心房に血液が溜まり、右心房が拡張するとともに、右心房のうっ血が起こり、うっ血性心不全に進行します。右心系のうっ血は、右心に流れ込む全身のうっ血を引き起こすため、全身のむくみや腹水が出てきてしまいます。慢性フィラリア症で腹水が出て来る場合、通常、心臓が不可逆的に大きな変化を起こしてしまっており、残念ながら末期的な状態であることが多いです。定期的に腹水を抜きつつ、心臓の薬を飲んで本人が苦しくないような治療を行っていくことになります。

急性フィラリア症の病態と症状

急性フィラリア症は、「急激にフィラリアが感染した」のではなく、フィラリアの症状が急激に出るものです。慢性フィラリア症と違い、昨日までとても元気だったのに突然ぐったりしてしまうという症状です。

急性フィラリア症=ベナケバシンドローム

急性フィラリア症はベナケバシンドローム(大静脈症候群:VCS)と呼ばれる病態です。ベナケバシンドロームは、肺動脈にいたフィラリアの虫がなんらかのきっかけで心臓内に移動し、右心房と右心室の間にある三尖弁(さんせんべん)に絡んでしまう病気です。

三尖弁は、常に右心房⇒右心室の一方向に血液を送るために働いています。そこにフィラリアの成虫が絡まると、弁の開閉がうまく行かず、心臓内で血液の乱流が起こります。これがベナケバシンドロームが起こる原因です。

症状は突然の虚脱と血尿

ベナケバシンドロームでは、本来一方向にしか流れない血液が、心臓の中で乱流するため、以下のような症状が起こります。

  • 虚脱:心臓からうまく血液を送り出すことができないため、低血圧や低酸素を起こし、突然ぐったりしてしまいます。
  • 血尿:心臓内の血液の乱流により、血液が壊され(溶血)、血液から出てきた血色素が尿に出てくるため、真っ赤な尿をします。

これらの症状は便に絡んだ虫の数やその絡み方によって変わってきます。一般的にはフィラリアの虫の数が多ければ多いほどベナケバ症候群のリスクは高く、症状も重篤になると考えれます。ただし、たった1匹のフィラリアだけでも運悪く弁に絡みついてしまえばベナケバシンドロームを引き起こす可能性はあるため、その予防が大切になります。

ベナケバシンドロームを疑う症状としては、虚脱や血尿以外に突然の呼吸促拍、舌や歯茎の色が白い、首の血管が怒張しているなどです。これらの症状がある場合には、ベナケバシンドロームの可能性が高く、急死してしまうリスクがあるためすぐにでも動物病院へ連れて行きましょう。

フィラリア症は予防が大切

フィラリア症には、完治させることが難しい慢性フィラリア症や急死のリスクが非常に高い急性フィラリア症(ベナケバシンドローム)があり、どちらも非常に怖い病態です。また、フィラリアにかかってしまった場合には、フィラリア成虫を殺してしまうことができないため(血管に詰まって犬の命が危険になります)、フィラリアの虫が自然に死ぬまで待たないといけません。

フィラリア症は幸い100%予防ができる病気ですので、フィラリア症を治療するのではなく、フィラリア症にかからないように予防していくことが大切です。フィラリア症の診断・治療および予防に関しては以下のリンクを参考にしてみてくださいね。

フィラリア症の診断・検査

フィラリア症の治療

フィラリア症の予防

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