犬のフィラリア症④ フィラリア症の予防薬の概要
フィラリア症は治療より予防が非常に大切です。がんや腎不全、肺炎など多くの病気は予防が難しいため、早期発見早期治療が必要ですが、フィラリア症は100%予防ができ、逆に治療が難しいため、とにかく予防が大切です。
今回は、非常に重要なフィラリア症の予防についてお話いたします。「よくわからないまま先生に言われたから毎月薬を飲ませている」という飼い主さんには是非読んでいただきたいです。大切な愛犬に必要な薬、しっかりした知識を付けて飲ませるようにしましょう。
フィラリア症の予防薬、実は駆虫薬
フィラリアの予防薬は実は駆虫薬なのです。どういうことかを簡単に解説いたします。
蚊に刺されてフィラリアの幼虫が犬に入ってくる
フィラリアは蚊から感染しますが、蚊の体内のフィラリアは非常に小さなサイズです。蚊の体内で育ったフィラリアは三期幼虫(L3)と呼ばれますがその大きさは1.3mmです。
L3が犬の体内に入って、数カ月をかけて犬の体内でフィラリアの成虫になります。詳しくは、こちらの記事を参考にしてみてください。
フィラリア予防薬は幼虫を殺す
フィラリア予防薬は、フィラリアの幼虫を殺すための薬です。そのため、「フィラリアが成虫になるのを予防する、幼虫駆虫薬」というのがフィラリア予防薬になります。
なぜ1ヶ月に1回?
フィラリア薬は基本的に1ヶ月に1回の投与が推奨されています。そこにもフィラリアの生態が関係しています。
フィラリアの成長には2か月近くかかる
フィラリアは成虫になる前に殺す必要があります。正確には5期幼虫(L5)になると薬が効かないと言われており、L5になる前に殺さなければなりません。
犬の体内にL3が入ってL5になるまで約50日かかると言われていますので、その間にフィラリア予防薬を殺す必要があります。2か月に1回だと、薬を飲ませる前に成長してしまうことがあるので、1ヶ月に1回の投与が必要になるのです。
数日の飲み遅れは問題ない
動物病院で働いているとよくある質問が「フィラリアの予防薬を飲ませ忘れてしまったけれど大丈夫か?」というものです。
フィラリア予防薬が、幼虫が成虫になる2か月弱のうちに幼虫を殺す薬であると考えると、数日の飲み忘れは基本的には問題ありません。ただし、半月以上遅れてしまうと、運が悪いとすでに成虫になってしまう虫がいる可能性があります。
数日遅れただけであればすぐに飲ませて様子を見ましょう。半月以上遅れた場合でもすぐに予防薬を飲ませて下さい。フィラリアにかかっているかどうかはすぐにはわかりませんので、今年はそのまま予定通り予防薬を飲ませて、次の年にしっかり検査をしてもらいましょう。
フィラリア予防薬の副作用はあるの?
フィラリア予防薬は薬ですので、その副作用を心配される飼い主さんも多いと思います。フィラリア予防薬の副作用について、科学的および経験的なお話をいたします。
フィラリア予防薬は哺乳類への影響が少ない
フィラリア予防薬に含まれる薬用成分は
- イベルメクチン
- ミルベマイシン
- モキシデクチン
などになります。これらの成分は節足動物の神経伝達には影響しますが、哺乳類へはほとんど影響を持たないと言われています。そのため、薬の成分としては非常に安全性が高い薬剤になります。
フィラリア予防薬に使う薬用量は非常に低い
フィラリア予防薬はフィラリアの幼虫を殺すことが目的のお薬で、フィラリアの幼虫を殺せるだけの薬用量を使用しています。
例えば、イベルメクチンはフィラリア予防薬としては体重1kgあたり6μg(6㎎の1,000分の1)という用量で投与します。体重によってフィラリア予防薬のサイズが違うのはこれが理由なんですね。
そして、イベルメクチンはフィラリア予防だけでなく、疥癬やニキビダニ(毛包虫)など皮膚病を起こすダニの治療にも使いますが、この場合には、体重1kgあたり200μg以上(フィラリア予防薬の30倍以上)で使います。
つまり他の病気にかなり高容量でも使える薬を、フィラリア予防薬の場合は非常に低用量で使っているのです。これがフィラリア予防薬の安全性の高さにつながっています。たとえ、1年分を間違えてまとめて食べてしまっても副作用が出ないことが多いです。
まれに起こるフィラリア予防薬の副作用
それでもやはり副作用がゼロではありません。まれに起こる副作用の例を見ておきましょう。
基剤に含まれる食材に対するアレルギー
フィラリア予防薬を含めた薬には薬を溶かす(入れる)ための基剤も含んでいます。特にフィラリア予防薬は毎月飲ませる必要があるため、おやつタイプ(チュアブル)になっているものが多く、その風味づけのために食品が基剤として使われています。
薬によって基剤は違いますが、牛肉や鶏肉を基剤として使っているものが多いです。そのため、それらの食品にアレルギーがあれば、そのアレルギーによる下痢や嘔吐、皮膚のかゆみなどが出てくることがあります。
特異体質による薬の副作用
フィラリア予防薬は安全な薬ではありますが、特異体質による副作用が出てしまう可能性は否定できません。これに関してはすべての薬にリスクがあり、また事前に予測することができませんので、飲ませて体調が悪くなってしまった場合には、その薬をやめるということしか対応ができません。
フィラリア予防薬では、元気や食欲の低下、よだれ、けいれんなどが起きることがあると言われていますが、重い副作用が起こることは極めてまれです。また、命に係わる副作用も私は見たことがありませんので、万が一何か有害反応が出てしまったら投与を中止するということで問題ないでしょう。
フィラリア感染犬には危険
副作用が少ない安全な薬ですが、フィラリア予防薬はフィラリアの成虫が感染している犬には非常に危険になります。
フィラリア予防薬はフィラリアの成虫が産んだ非常に大量のミクロフィラリアも同時に殺してしまうため、ミクロフィラリアから出た抗原(成分)が犬にアレルギー反応を起こしたり、急性フィラリア症を発症する可能性があります。
これらの反応は時に犬の命に危険がある非常の怖い副作用であり、他の副作用に比べると発生するリスクがとても高い副作用です。フィラリアにかかっていないかどうかは抗原検査でしっかり確認してもらい、万が一感染してしまっている場合には、感染していても安全に使える薬を投与するようにしましょう。
コリー犬種にも基本的には安全
ご存知の方もいるかもしれませんが、コリーやボーダー・コリー、シェルティーさらにはウイペットやオーストラリアン・シェパードなどの犬種は、特定の薬に副作用が出やすい犬種とされており、イベルメクチンには注意が必要と言われています。
これらの犬種に共通するのがMDR-1遺伝子と呼ばれるものの異常であり、この遺伝子に異常があると、薬の副作用が非常に強く出てしまうことがあります。
そのため、コリー犬種にはイベルメクチンは使わない方がいいと言われています。ただし、実際のところ、フィラリア予防薬くらいの用量であればほとんど副作用は出てきません。多少副作用のリスクは他の犬種に比べると高い可能性はあるので、心配な飼い主さんはイベルメクチンではなく、ミルベマイシンを含む予防薬を処方してもらうようにしましょう。
まとめ
まとめです。
- フィラリア予防薬はフィラリアの幼虫の駆虫薬
- 投薬はフィラリアが成虫になる1ヶ月の間に1回必要
- フィラリア予防薬の安全性は高い
- フィラリア感染犬にはフィラリア予防薬は危険
次回はアイビーペットクリニックで使う実際のフィラリア予防薬をご紹介いたします。年に1度で予防ができる注射の予防薬についても解説いたします。