ペットとの安全で幸せな生活のために知っておきたい感染症「コリネバクテリウム・ウルセランス」

先日ニュースで流れたコリネバクテリウム・ウルセランスは稀な病気であり、獣医師でも「名前くらいなら聞いたことがある」ということが大半です。恥ずかしながら私もその一人であり、普段診察することがないため、その知識は大学の授業で少し習った程度です。

しかし、猫から感染した疑いのある女性が死亡したというニュースは、猫の飼い主さんには非常にインパクトが大きいようで、過剰な反応をしてしまう人も少なくないです。ここでは、コリネバクテリウム感染症についての論文や報告をまとめさせてもらいます。

コリネバクテリウム・ウルセランス

コリネバクテリウム菌 http://gram-stain.com/?p=214より引用

コリネバクテリウム・ウルセランス感染症とは

コリネバクテリウム・ウルセランス感染症はコリネバクテリウム属に含まれる「Corynebacterium ulcerans」(以下ウルセランス菌)という細菌による感染症です。ジフテリアを引き起こす「Corynebacterium diphtheriae」菌と同じ属の細菌であり、ジフテリアと同じような症状を起こすと言われています。

ウルセランス菌は人以外に幅広い動物に感染することがあると言われており、動物からヒトへの感染を引き起こす「人獣共通感染症」の一種です。犬や猫などのペットだけでなく牛などの家畜からも感染する可能性があります。

犬と猫のコリネバクテリウム・ウルセランスの保菌割合の調査

さまざまな自治体で犬や猫のコリネバクテリウムの調査が行われておりますのでいくつか抜粋しておきます。

2010年 名古屋市 猫 1/96(1%)(毒素を持つ菌はなし)
http://www.city.nagoya.jp/kenkofukushi/cmsfiles/contents/0000025/25355/H22zoonosis.pdf

2011~2012年 徳島県 猫 11/241(4.6%)
https://anshin.pref.tokushima.jp/docs/2013032500033/

2011~2014年 大阪市 犬 0/128 猫 5/137(3.6%)
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jvma/68/12/68_765/_pdf

他にもいくつかありますが、大体0~10%程度の保菌状況であるようです。また、全体的に猫の保菌割合に比べて犬の割合が少ない報告が多くなっています。

徳島県と大阪市の調査は、動物管理センターに搬入された動物、名古屋市の調査では動物病院に来院した動物からの調査であることが保菌割合の差につながっている可能性もありそうです。つまり、室内飼いの猫では、外飼いもしくは野良猫のウルセランス菌の感染割合は低いと考えられます。

犬と猫のコリネバクテリウム・ウルセランス感染症の症状

犬と猫のコリネバクテリウム・ウルセランス感染症の症状は、一般的には、咳やくしゃみ、鼻水などの上部気道感染症の症状(いわゆる風邪の症状)や皮膚病変であると言われていますが、今回紹介した大阪市の報告では、ウルセランス菌感染猫は上部気道感染症の症状ではなく、削痩・衰弱・負傷など一般状態の極端な悪化が認められたとされています。また、徳島県の例では特に外見上の異常を認めなかったと報告されています。

つまり、犬や猫のコリネバクテリウム・ウルセランス感染症では風邪のような症状を呈すとは限らず、あまり症状を出さなかったり、非特異的な全身状態の悪化という症状で出てくる可能性もあるということです。

人のコリネバクテリウム・ウルセランス感染症と疑われる感染源の報告

今回初の死亡例を出したコリネバクテリウム・ウルセランス感染症ですが、回復した感染報告は2001年からいくつかあります。2017年11月末までに国立感染症研究所で発生を確認しているものは、25例です。(国立感染症研究所調べ)

以下のリンクから公表されている感染例の詳細を確認できますので、興味のある人はご覧ください。

コリネバクテリウム・ウルセランス感染症に関するQ&A

これらの報告例を見る限り、猫の多頭飼いや、外猫の餌やりをしている人に多く発生しているようです。普通に室内飼いの猫や犬を飼っているのであれば、感染リスクは高くないと考えられます。

ペットのコリネバクテリウム・ウルセランス感染症が疑われる場合には

可能性は低いとはいえ、ペットがコリネバクテリウム・ウルセランス感染症にかかってしまう可能性はあります。鼻水やくしゃみ、体調不良などがあり、他の動物と接触があるような場合には、ウルセランス菌の感染が疑われるため、以下のような方法を取りましょう。

1.早めに動物病院へ行く

まずは動物病院へ行き、相談してみましょう。現在のところ、コリネバクテリウム・ウルセランス感染症を院内で検査・診断することは不可能です。一般的な検査センターでも菌の同定は難しいため、動物病院から検査センターに問い合わせてもらうことになると思います。

もし、コリネバクテリウム・ウルセランス菌感染症が確定した場合には、入院して投薬治療をすることで完治すると言われています。

2.濃厚接触は避ける

口渡しの給餌やキスなどは避けましょう。また、症状のある動物を触った場合には必ず手洗いなどをしましょう。特に、地域猫に餌やりをしている人は、体調が悪そうな猫のお世話はマスクをして行い、触った後は必ず手洗いをしておきましょう。

3.自分の体調が悪い時はすぐに病院へ

ヒトのコリネバクテリウム・ウルセランス感染症では、感染初期に風邪に似た症状を示し、その後、咽頭痛・咳などに移行すると言われています。コリネバクテリウム・ウルセランス感染症の心当たりがある場合は早めに病院で検査をしてもらってください。治療法の確立している病気ですので、早めに治療を行うことで重症化せずに治すことができることが多いようです。

コリネバクテリウム・ウルセランスに注意が必要な人

以下に当てはまる人は、コリネバクテリウム・ウルセランスに特に注意しておいてください。

  • 野良猫に餌やりをしている
  • 猫や犬の保護活動をしている
  • 高齢
  • 免疫が弱るような病気や投薬をしている
  • 多頭飼い

正しい知識と対策で不安を取り除こう

ニュースとしては大きく取り上げられましたが、ペットからうつるコリネバクテリウム・ウルセランス感染症はリスクの高い病気ではありません。実際に毎日様に病気の動物と接している我々獣医師や動物看護士でも感染例はないようで、感染はまれと考えてもいいでしょう。

ただし、感染して死亡した人がいるというのは事実であり、気を付けておく必要はあります。大切なのは

  • 動物がコリネバクテリウム感染症にかかるリスクがあるのか、かかっている可能性があるのかを考え
  • リスクが高い人では必要以上の濃厚接触は避け
  • 自分の体調が悪ければ早めに病院へ行く

ということです。安心して幸せにペットと暮らすためにも、コリネバクテリウム・ウルセランスに関する知識をしっかりつけておいてくださいね。

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